「家に困っている人を助けたい」と走り続けてきた

この記事を書いている1月22日時点で、北川さんが拠点をおく輪島中学校ではアリーナに屋内用インスタントハウス250棟を建てる準備が進められており、2棟の人道支援用は、被災直後から狭い職員室での雑魚寝を強いられていた教員が寝泊まりするようになった。

今現在も支援の輪は広がっており、インスタントハウスの実費調達のために開かれた名古屋工業大学基金に寄せられた寄付は1650万円。屋内用インスタントハウス440棟分と人道支援用インスタントハウス13棟分が、主に輪島市各町の避難所に届けられる準備が整った(1月22日時点)。

冒頭に記したように、すでに被災地全域から屋内用インスタントハウス2000棟、屋外用インスタントハウス100棟の要望が届いており、これから能登半島にたくさんのインスタントハウスが建てられる。それはまさに、東日本大震災以来、「家に困っている人を助けたい」と走り続けてきた男が思い描いてきた光景だ。

子どたちと一緒に組み立てた屋内用インスタントハウス。
写真提供=北川教授
完成した屋内用インスタントハウス。側面には子どもたちの絵が描かれている。

しかし、まだ足を止めるつもりはない。北川さんの頭のなかには、さらに進化した人道支援用インスタントハウスの構想がある。世の中には、廃棄される農作物も多い。それらを使って、100%生分解性の断熱材とテントシートを作ろうとしているのだ。

北川さんが思い描くのは人間、動物、昆虫が食べられるエディブル・インスタントハウス。この話を聞いて、北川さんが学生時代に和菓子の素材で模型を作っていたことを思い出し、「お菓子の家と同じ発想ですね」というと、北川さんはいたずらをたくらむ子どものような顔で笑った。

「お菓子の家っていう人もいれば、おかしな家っていう人もいるんですけどね」

誰も想像しなかった膨らませる家を生み出した北川さんは、「おかしなお菓子の家」の実現も信じて疑わない。詳しいことは書けないが、アメリカの政府機関も、この男の創造力に注目している。北川さんはこれからも、世界の被災地を飛び回るのだろう。しかし、終着駅は決まっている。

――まだ、和菓子職人になりたいんですか?

「はい! あんな楽しい仕事、ないですから」

名古屋工業大学の北川教授
筆者撮影
家に困っている人を助けたい——。北川教授のインスタントハウス開発はこれからも続く。
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