顧客のライフスタイルを取り囲めるか
そこで顧客のライフスタイルを広く捉えることが重要になるわけだが、その試みはこれまでもいろいろと行われてきた。ひとつの方法が新しいブランドをつくることである。これまでの商品ブランドと違うブランドを出すことで、これまでと違う顧客や顧客の日常と非日常という違う側面にアプローチをすることなどは行われてきた。そうした中で複数の企業で新しいブランドを構築するというユニークな取り組みが1999年からスタートした「WiLL」という共同ブランドプロジェクトである。トヨタ、花王、アサヒビール、松下電器、近畿日本ツーリストという日本を代表する異業種のトップ企業が共通の新しいブランドを作り実験するという試みであった。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080118/145659/
→未来的すぎて失敗した新手法 「WiLL」をトヨタが復活
http://www.j-cast.com/2008/03/16017682.html?p=all
しかし、この頃は残念ながら、プロダクトアウトで一方的に企業側が商品を提案することに留まり、顧客とコミュニケーションすることや、企業間をまたぐことが容易なメディアも存在していなかった。そのため、中途半端に終わってしまった感もあるが、走行距離で課金するという大胆なビジネスモデルの自動車をトヨタが発売できたのも既存ブランドでなかったからであるとすると色々な可能性は提示できたプロジェクトだったのだと思う。もしこのソーシャルメディア時代にまたWiLLができるのであれば様々な可能性があるのではと筆者は考える。
同様に2000年以降はブランド間のコラボレーションも増えている。食品などでも長年愛されているようなブランド力の大きいブランドが企業を越えて別の商品とコラボ(チキンラーメンと湖池屋ポテトチップスのような)するような事例は増えている。さらにWeb時代になり、自社でオウンドメディアと呼べる顧客と双方向コミュニケーション可能なメディアを持つことができるようになったことは大きい。例えばコカ・コーラはその若者向けの圧倒的なブランド力を背景に大量の会員を抱えた「コカ・コーラパーク」というサイトを持つことができるようになった。
例えば日産からすると若者向けに車をアピールするのみもはやマスメディアでもなかなか効果的な手段が無い中でこのコカ・コーラのサイト上で共同キャンペーンを実施することでマスメディアよりも効率的なコストで若者のメールアドレスをゲットできたりしている。このようにITにより強力なブランド力などで会員を多数集めた企業は自らがコラボのプラットフォームになる力を持てる。
TポイントもTSUTAYAの利用者という顧客資産を中心にコンビニのファミリーマート、ガソリンスタンドのENEOSなどの強力な異業種ブランドを束ねることで4000万人を越える会員データベースを構築している。Tポイントはまさに若者の生活に関わるライフスタイル全般の企業をカバーしており、購入時にカードにポイントを貯めるという行為により、購買履歴などの行動履歴を蓄積することが可能になっている。参加企業はポイントというインセンティブで顧客が利用してくれるというメリット以外にも、自分が新規出店を行う場合、その商圏における加盟企業の利用状況から想定の来店客数や売上のシミュレーションができるなどのメリットがある。まさに一社ではわからない顧客のライフスタイルが浮き彫りになるため、自社のポイントサービスをTポイントにしてしまう企業もでてきている。ライバル企業であるPontaも同様な取り組みを行っている。
またWebサイト上でも複数の企業の商品を比較するようなサイトも利用が増えている。価格コムという価格比較サイトでは顧客が購買時にどんな商品を比較されているのか、気になる口コミのポイントはどのあたりかということを知ることができるポータルサイトになっており、まさに自社のWebサイトではとれないそのデータを購入している企業もある。