仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは古林英一著『公営競技史 競馬・競輪・オートレース・ボートレース』(角川新書)――。
優勝した片岡雅裕
写真=東京スポーツ/アフロ
2023年11月26日 ボートレース チャレンジカップ 12R 2周2M 優勝した1番片岡雅裕 場所=三国

イントロダクション

競馬・競輪・オートレース・ボートレースといった娯楽には縁がないと思っている人も多いだろう。しかし実は、これらは「公営競技」で、売上は社会の様々な分野の補助事業に支出されており、誰にでも関係がある話だ。

ではなぜ、日本では公営のギャンブルが定着しているのだろうか。

本書は、競馬のほか、世界でも稀有な競輪・オートレース・ボートレースという計4つの日本の「公営競技」の歴史を前史にまでさかのぼり、誕生の理由、高度経済成長期の発展、バブル経済崩壊後の縮小、直近の活況に至るまで詳細にたどっている。

戦後の混乱期に、産業振興に資するとして始まった公営競技は、国が豊かになるとともに役割を変化させ、大衆娯楽や地域の雇用を生み出すものとして受け入れられてきた。さらに、IT企業の参入によって、直近の売上額はバブル期に匹敵、あるいは上回るほどにまで拡大しているという。

著者は、北海学園大学経済学部地域経済学科教授。博士(農学)。専門は農業経済学、環境経済論、公営競技論。1999年より公営競技の研究を開始し、2001~03年に北海道地方競馬運営委員会委員、2022年より、競輪とオートレースを統括する公益財団法人JKA評議員。

序.活況に沸く公営競技界
1.夜明け前――競馬、自転車、オートバイの誕生 1862~1945年
2.公営競技の誕生――戦後の混沌で 1945~55年
3.「戦後」からの脱却――騒擾事件と存廃問題 1955~62年
4.高度成長期の膨張と桎梏――「ギャンブル公害」の時代 1962~74年
5.低成長からバブルへ――「公害」からの脱却 1974~91年
6.バブル崩壊後の縮小と拡張――売上減から過去最大の活況へ 1991年~
終.公営競技の明日

「地方財政の改善」または「健全化」のために許されている

公営競技とは、地方自治体などが主催する競馬・競輪・オートレース・ボートレースの4競技のことだ。競馬は世界各地で開催されているが、競輪・オートレース・ボートレースは日本で独自に始められたものだ。韓国で競輪とボートレース(競艇)が開始されるまでは世界に類をみないものだった。公営競技は馬券・車券・舟券の売上で成り立っている。2021年度のこれらの売上額の合計はおよそ7兆5000億円。

馬券・車券・舟券の購入と払戻という行為は、金品を賭けて勝負を競うギャンブル(賭博)だ。では、なぜ公営で賭博が行われているのかといえば、刑法の例外としてこれらが許されているからだ。それぞれ競技にはその根拠法がある。(*それらには)いろいろな目的が記されているが、「地方財政の改善」または「健全化」という文言はすべてに共通している。

公営競技の根拠法は、第二次世界大戦終結から間もない終戦直後の混乱期に相次いでつくられている。公営競技は、「戦後」という社会・経済のきわめて特殊な状況で誕生する。当時、馬はあらゆる産業で活躍していたし、自転車も重要な交通・運搬機器だった。オートバイは急速に成長する新興産業だった。当時の社会事情からすれば(*根拠法にある)産業振興に資するための公営競技というのは十分なリアリティをもっていた。