「本部としてもよくわかっているつもりです」
この日、那覇家庭教会では「壮年部」の集会があった。この地域にいる旧統一教会信者の中で30代から70代の男性信者たちによって編成されているもので、地域のボランティアなどさまざまな活動をしている。
そんな壮年部の集会に、本部職員が参加して今のマスコミの報道や岸田政権の対応についての説明をした。その後の「質疑応答」で、信者たちが抱えていた「思い」を吐露し始めたというわけだ。
20人ほどの男性信者たちの、さまざまな感情を黙って受け止めていた本部職員は、眼鏡をかけて髪をオールバックにセットしている紳士然とした70代の細身の男性だった。彼は一通り信者たちの意見に耳を傾けた後で、穏やかな口調でゆっくりと信者たちに語りかけた。
「これまで信仰に捧げてきたみなさんのお気持ちは、本部としてもよくわかっているつもりです。もちろん、我々としては何もしていないということはありませんし、さすがにこれは看過できないという事実誤認には抗議もしていますし、弁護士先生の協力のもと、名誉毀損での訴訟もしています。しかし、マスコミはどんなに私たちがそのような反論をしても、違うんだということを訴えても取り上げてはくれないんです」
ホール内に深いため息が漏れる。腕を組んで険しい顔をしている人もいれば、納得がいかないという感じで「そんなバカな話があるのか」と呟く人もいれば、「信教の自由はないのか」と声を上げる人もいた。
「人間臭い」信者たち
厳しい現実に打ちひしがれる人たちの姿を、ホールの壁側から見ていてちょっと意外だった。マスコミ報道や教団問題を扱う弁護士やジャーナリストらの話に登場する旧統一教会の信者というのは、「韓鶴子総裁から洗脳されて自分の意志も関係なく操られる人々」である。
自分自身の頭で何かを考えたり、マスコミ報道や政治に対して心が乱されることもなく、「真のお母様」である韓鶴子総裁だけを信じて、教会本部の指示に素直に従って、霊感商法したり自民党議員の選挙の応援をする人々だ、というイメージが広がっている。
しかし、私の目の前にいる信者はそうではない。自分の頭で考えてさまざまな葛藤を抱えて、社会から理解をされないことに悔しさをにじませて、中には教会本部の対応に不満を感じている人もいる。なんというか、非常に「人間臭い」のである。