「ジャングル・ブギー」「ヘイヘイブギー」で大ブレイク
これがデビュー作となる三船敏郎が、笠置の咆哮にあわせて、ほとんど暴力的に激しくジルバ(ジターバグ)を踊るシーンは鮮烈そのものだ。プロットの中では否定されるべき「悪徳」を象徴するシーンだが、笠置と三船の存在感が説話構造をはるかに凌駕している。この傑作は、彼女の歌手引退からインターネットの普及までの間、動く笠置シヅ子を見ることができる数少ない機会を提供していたと考えられる。俳優としての三船敏郎の危険な雰囲気と身体的な魅力を十分に輝かせたという点でも「ジャングル・ブギー」の文化史的な重要性は絶大だ。
同曲は、9月の日劇公演『ジャングルの女王』でも用いられ、2月にはレコードも発売されている。ジョセフィン・ベーカーや、当時ハリウッドで最もギャラが高かったという“ラテン娘”のカルメン・ミランダのような、大きな羽根をつけ、エキゾチックさを強調した衣装が印象的だ。
さらに、5月には「さくらブギウギ」、6月には「ヘイヘイブギー」が発売される。「さくら」という題材からして、舞台で歌われたのはもっと早かったかもしれない。
笠置の存在自体がブギウギと同一視されるようになる
6月末には大映映画『春爛漫狸祭』が公開され、笠置は、戦前の「ホット・チャイナ」の替歌を歌っている。原曲の「チャイナ、チャイナ」の連呼はここでは狸祭にあわせて「ポンポコ、ポンポコ」あるいは「カムカム、カムカム」と歌われる。
「カムカムエブリバディ」と狸の連想は、「証城寺の狸獅子」の節に「カムカムエブリバディ」と当てた平川唯一の「ラジオ英語会話」(通称「カムカム英語」)を下敷きにしているだろう。編曲は戦前のものとほぼ変わらないが、曲中で「踊るリズムはブギウギ」と歌われており、これが「ブギウギ」であることがはっきり示される。
この頃には、笠置とブギウギの観念連合が確立されたようだ。逆にいえば、笠置の存在自体がブギウギと同一視され、彼女が歌う陽気でリズミカルな楽曲は、戦前の「スウィングの女王」時代の曲も含めてなんでもブギウギと呼ばれるようになる、ということでもある。