ですから、アメリカの医者たちは、製薬会社の営業担当者であるMRから新しい薬の宣伝を受けた際に、真っ先に副作用についてあれこれ質問します。実際に私もアメリカに留学中、何度もそのシーンを見る機会がありました。

日本の医者がMRと交わす会話といえば、ゴルフや会食の約束がメインで、薬について質問するとしても、その薬の良いところばかり……というのが通常だったため、アメリカの医者たちの副作用に対する意識の高さに驚愕きょうがくしたのを覚えています。

アメリカの医者は訴えられるのが怖いので、少なくとも副作用を勉強します。さらに、何種類も薬を出すと何かしらの副作用が出ることはわかっていますから、できるだけ処方する薬の数を少なくしようとします。エビデンスのない薬を何種類も処方するなんてことは、間違ってもしません。

薬害で医者は訴えられない

日本の有名な薬害訴訟でも、医者が責任を問われる事態は見られません。1960年代には、神経障害が一生残る病気・スモンを発症してしまうキノホルムという整腸剤を処方した医者や、サリドマイドという肢体の不自由な子供が産まれてしまう副作用がある鎮静薬を出した医者も、訴えられることはありませんでした。

そのほか1970年代にも、抗マラリア剤のクロロキンを用いたことで、多くの患者さんが網膜症を患う事件がありましたが、処方した内科医は訴えられていません。つまり、日本で起こったほとんどの薬害で、製薬会社は訴えられても、薬を出した内科医は訴えられていません。

過剰な薬剤費が社会保険料増大の原因になっている

薬を減らすことは、社会にも良い効果をもたらします。

昨今、社会保険料の負担額が大きな話題になっています。当然のことですが、高齢者が増えれば、それだけ医療費も増大します。それゆえ、「老い先短い高齢者にばかりお金を使っているのは無駄ではないのか」「高齢者のための医療費負担によって、若者世代の税負担が増えている」などという批判の声が上がり、高齢者医療に対して見直すべきではないかという風潮もあります。

待合室
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高齢者の医療費が増えてしまう大きな要因は、過剰な薬剤費です。日本の医療費の約4割が薬剤費だといわれていますが、高齢者はもっと高い割合なのではないでしょうか。そして、世界的にも薬剤費の割合が非常に高いのです。