大学病院の多い都道府県ほど平均寿命が短い

総合診療(当時は内科診断学と呼ばれました)のトレーニングを受けた世代の町医者と、受けていない世代の開業医がいるということも念頭においておく必要があるでしょう。

総合診療のトレーニングというのは、自分の専門分野だけでなく、患者さんの身体を総合的に診るための教育のことです。

周知のとおり、大学病院には「内科」という科はなく、「呼吸器内科」「消化器内科」「循環器内科」などにわかれています。こうして細分化することによって、高度医療を提供しているのです。

医学部の医者たちは、それぞれが専門の臓器に特化して学び、研究を通して専門性を高めているのです。

1970年代に各大学で開始された「臓器別診療」による専門性の高い医療のおかげで多くの難病患者さんたちが命を救われてきたのですが、多くの病気を抱える高齢者には不適切な治療である可能性が高いとわたしは考えています。

高齢化が進んだ現在では、大学病院の多い都道府県ほど平均寿命が短い傾向があるのです。

さて、大学病院で専門医として働いていた医者も、通常は、地域で開業する場合、どんな病状の人でもある程度、診ることのできるスキルが求められます。

ところが現在、63歳であるわたしが医者になる以前から医学の専門分化が進み、現在50代より若い医者はほとんど総合診療の教育を受けていないまま開業するのが現実です。

頭のかたいヘボ医者にはご用心

欧米には「ファミリープラクティス」といって、乳児からお年寄りまで家族全員の健康相談、病気の発見、診断、治療など総合的なケアを学ぶための機関があります。イギリスでは医師全体の約半数が総合診療医だとされています。

日本には総合診療医の教育をする機関がほとんどありません。

近年になって注目され始めたというのが現状ですが、教える人がいないうえ、スタッフの数が多くないのでうまく機能していないのは事実です。

和田秀樹『病気の壁』(興陽館)
和田秀樹『病気の壁』(興陽館)

こうしたことから40代、50代の町医者の多くが、開業する直前まで大学病院や大病院で呼吸器とか消化器といった特定の臓器の専門医として治療にあたっていたと思われます。

それなのに開業するにあたって「内科クリニック」という看板を掲げて、「老人歓迎」「訪問診療もやります」などと掲げるわけです。

といっても、わたしはそういう医者のすべてがヘボだといっているわけではありません。

開業医になった当初は自分の専門分野以外の知識に乏しくても、さまざまな症状の患者さんと向き合うなかで総合診療のプロフェッショナルになっていく人もいます。

問題は頭のかたい医者。狭い知識だけでわかったようなことをいうヘボ医者は素早く見抜いて回避しなくては、命を縮めることになりかねません。

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