絶滅危惧種に指定されている動物は、取引が厳しく制限されている。日本の動物園では国内繁殖に取り組んでいるが、遺伝的多様性の確保は簡単ではない。朝日新聞記者3人の共著『岐路に立つ「動物園大国」 動物たちにとっての「幸せ」とは?』(現代書館)より、一部を紹介する――。
※所属や肩書などは取材当時のものです。
繫殖のために貸し出されるレッサーパンダ
2020年3月31日。
1頭のレッサーパンダを載せたワゴン車が、高速道路を走っていた。
満開の桜が咲く千葉県から、まだ雪の残る長野県へ運ばれたのは、市川市動植物園生まれのミルク(メス、2歳)。
長野市茶臼山動物園で待つヒビキ(オス、5歳)と繁殖させるための引っ越しだ。
午前10時過ぎ、中型犬用の運搬ケースに入れたミルクを、迎えに来た茶臼山動物園のワゴン車に積み込んで出発。途中、高速道路のパーキングエリアに止まって様子を確認しながら、午後2時前に新居に着いた。
大型の動物とちがい、小型の動物は、動物園の飼育員みずから車を運転して運ぶこともある。
茶臼山動物園の飼育係長、田中宏さんは、ミルクをヒビキの隣の部屋に運び入れ、「落ち着いていますね」と安心した様子だった。
「シセンレッサーパンダ」の7割は日本にいる
レッサーパンダは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、絶滅の危険が高い「危機種」に分類されている。
森林破壊や、毛皮を目的とした乱獲で、生息数は減少。
この数十年のうちにも絶滅する可能性があるとも指摘されている。
野生では標高2500〜4000メートルほどの高地に暮らす動物で、生息地によってシセンとネパールの2つの亜種に分かれる。
日本国内には19年末時点で279頭が飼育されているが、このうちの9割超が中国などにいる「シセンレッサーパンダ」だ。
「ネパールレッサーパンダ」は、熱川バナナワニ園(静岡県東伊豆町)で飼育されている12頭(19年末時点)がいるだけだ。
各地の動物園で人気を集めるレッサーパンダだが、実は、世界の動物園で飼育されるシセンレッサーパンダの7割以上が日本国内にいる。