いい写真を撮るには、どうすればいいのか。写真家の幡野広志さんは「自分のために撮る人は、自分がストレスを感じない撮影をして被写体にストレスを与えてしまう。写真を撮りたいと思う相手ほど、敬意を払うべきだ」という――。

※本稿は、幡野広志『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

幡野広志撮影写真
撮影=幡野広志

「撮る人」が集団になるとマナーが悪くなる

写真を撮る前に意識しないといけないことがあります。それは写真のために社会は用意されているわけではないということです。当たり前ですよね。だけど写真を撮る人が集団化するとなぜかこれを忘れてマナーが悪い存在になりがちなんですよね。

たとえば駅員さんや周囲に罵声をあげる集団。三脚禁止の看板が目の前にあるのに三脚を立てて花を撮る集団。観客の前に立ち塞がって花火大会を撮影する集団。個人個人の集まりなんだけど、競争意識が芽生えるのか市井の人からするとすごく迷惑です。

写真学生の頃にカメラメーカーが主催する撮影会のアシスタントのバイトをしました。日給8000円とメーカーロゴの入ったTシャツをもらいました。モデルさんが20人ぐらい、おえらい写真家の先生が10人ぐらい、撮影会に参加した人は1000人ぐらい。休日の大きな公園に散らばって撮影会をしました。

写真をはじめる前に、人間をはじめよう

よく晴れた休日の公園なので、たくさんの利用者がいます。バズーカ砲みたいなレンズをつけていた中年男性が、自分のカメラの画角に入ったちいさい子どもをつれたご家族に「どけよバカヤロー‼」と怒鳴ったんです。

びっくりしました。こいつ人間終わってる。いや、人間がはじまってもいないと思いました。案の定、相手方のご家族とトラブルになりました。あまりにも酷かったのでぼくも怒りました。ご家族と一緒に運営責任者のもとにいきました。責任者は謝罪をしたものの怒鳴った本人はお咎めなし。

カメラメーカーからすれば怒鳴った中年男性はお客様なわけです、怒鳴った中年男性からしても自分はお客様なわけです。もう20年ぐらい前のことなので中年男性は高齢男性になって、きっとコンビニや駅や病院で誰かに怒鳴ってると思いますよ。

写真をはじめる前に、人間をはじめましょう。