明るい家に住み慣れた日本人が、欧米型の住まいの様式を取り入れるにはどうすればいいか。ある建築家は、新しいわが家に引っ越してきた施主一家から暗いから明るくしてほしいという要請があっても、あえてお茶を濁して取り合わないという。編集者の藤山和久さんが書いた『建築家は住まいの何を設計しているのか』より紹介しよう――。

※本稿は、藤山和久『建築家は住まいの何を設計しているのか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。

和室
写真=iStock.com/YinYang
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畳の上にちゃぶ台を置けば、6畳間はダイニングへ

日本の住宅の照明は、部屋のすみずみまで均一に照らすものが久しく好まれてきた。天井の真ん中に鎮座する巨大なシーリングライトがその象徴である。

いわゆる高級マンションを除けば、賃貸物件の照明はいまも天井の真ん中に取りつけるものが一般的だ。シーリング(ローゼット)と呼ばれる照明器具の取付口が天井面にすでにあり、賃借人はその金具を目がけて好みの照明をセットする。

嫌なら使わなければよいのだが、ありがたく使わせてもらっている人が大半だろう。借家歴30年の私も、使わなかったことは一度もない。

部屋のすみずみまで均一に照らすあかりは、「部屋の用途を規定しない」という昔ながらの暮らし方にも都合がよかった。

部屋の用途とは、部屋で何をするのかという主な利用目的のことだ。現代における部屋の用途は平面図を広げればすぐに分かる。キッチン、ダイニング、主寝室……部屋の名前と用途がイコールの関係で結ばれているからだ。

ところが昔は、6畳間、8畳間など部屋は広さで呼ばれていて、用途も定まっていなかった。畳の上にちゃぶ台を置けば、6畳間はいまでいうダイニングになった。

ちゃぶ台を片づけてふとんを敷けば、同じ部屋が寝室になった。時間によって、季節によって、また家族構成の変化によって部屋の用途は適宜入れ替わったのである。

そんなフレキシブルな生活に、すみずみまで均一に照らすあかりはぴったりマッチした。部屋が均一に明るければ、ちゃぶ台をどこに置いてもごはんをおいしく食べられる。

いまどきの照明計画のように、ダイニングテーブルの中心にペンダントライトを吊り下げるようなスタイルは、「テーブルの位置がそこから絶対に動かない」という暗黙の了解があってこそ成り立つのだ。