「家に3000万円の聖本が4冊もある」
「踏み込んだ判断」には、二つあるといいます。
「一つは(教団と被害者との)争いが顕在化していない段階で、この合意書が書かれたものであることです。争いが顕在化していないなかでは、信者は具体的に何の権利を失ったのか、何について訴訟を起こせなくなるのかという認識ができない。そういう状態で合意書を書かされている。もう一つは、被害者が、統一教会の心理的影響下にあるなかで、統一教会の言いなりの心理状態であることに乗じて、合意書が作成されたのであって、やり方が非常に不当であるとしています。旧統一教会の悪質性、反社会性を、裁判官がようやく理解してくれたことを意味するものです」(佐々木弁護士)
梅津竜太弁護士も次のように補足しました。
「判決にもありますが、(信者は)旧統一教会と一定距離を置くようになった時期なんです。外から見ると、統一教会をやめたと思われても仕方ないような状況でも、統一教会からの心理的な影響がまだあることが認定され、その段階で締結された文書について無効という判断がされております。しかも、この合意書が取り交わされた時には、統一教会の顧問弁護士が立ち会っているんです。たとえ、その弁護士が説明していても『無効』という判断がされている。その点も大きい」
前出・阿部弁護士は、本判決を踏まえ、今後の展開をこう予想しました。
「統一教会の合意書や念書を無効にした高裁での判決というのは3例目になると思います。統一教会が合意書や念書を交わさせて、返金請求を阻止するというやり方は、コンプライアンス宣言をした2009年以降、組織的に行っていたものと考えられます。全国で念書や合意書をかわされている被害者はかなり多くいらっしゃるということです。今後、声を多く上げてくる可能性があります。そうすると、やはりその方々の被害救済が問題となり、きちんと教団の財産を保全しておくことが必要になってきます」
前出A子さんは、自らの被害体験を話すなかで、旧統一教会の卑劣な手口を語り、被害者の連帯を呼びかけた。
「信者は、教会に絶対に服従なんです。教会の人から『書類にサインをしろ』と言われればサインします。そのような合意を盾に、献金の返金請求ができないとすれば、被害の回復などできません。あんなにたくさんの献金をして、家に3000万円の聖本が4冊もあるのに、教会からは『(私からの)献金のリストがない』と言われています。本当に、大変な裁判です。それでも、諦めないで頑張りたいと思っています。同じような書類にサインをしろと言われて、サインしてしまった人にも頑張ってほしいと思います」
旧統一教会の被害者の多くは80代のA子さんと同様に高齢者です。そのことを考えれば、手練手管である統一教会を相手に、個人が戦うのは本当に過酷で、大きな負担になるのは火を見るよりも明らかです。
いわゆる振り込め詐欺では主に高齢者が狙われて、財産が根こそぎ奪わることもあります。しかも、詐欺集団の指揮をとるトップの正体がわからず、お金の流れもつかめないために、お金を取り戻すのが難しくなります。
旧統一教会はれっきとした宗教法人です。お金を取り戻すチャンスはあるはずですが、現状ネックとなっているのが、被害者らが弁護団を通じて返金請求をしても、「献金記録がない」などとうそぶいて、お金の流れをはっきりとさせない教団の姿勢です。
元信者の目線からいえば、旧統一教会の教えにおいて、公金横領は非常に重い罪になります。従って、そうしたことがないようにするため、一円単位に至るまで献金記録はしっかりと残してあるはずであり、それを開示しないのは極めて不誠実といえます。
ただでさえ高齢の被害者は、裁判などの経過とともにさらに年齢を重ねていきます。国は、人道的な立場からも被害者の心身がしっかりしているうちに、お金を取り戻せるような道をもっと積極的に示すべきではないでしょうか。いつまで高齢者に優しくない社会のまま放置しておくつもりでしょうか。もはや、被害者個人の自助努力に任せた対応はとっくの昔に限界にきているのが、旧統一教会における問題なのです。