高裁の判決は、「合意書は公序良俗に反して無効」
同日に開かれた立憲民主党を中心とする国対ヒアリングにて、被害を受けた80代A子さんは、入信のきっかけや裁判における思いを語っています。
A子さんが統一教会に入信したのは40年ほど前のこと。旧統一教会の女性が「手相の勉強をしている」と家を訪ねてきたことがきっかけでした。
「当時の私は、子供たちと夫を何よりも大切にして生きました。ただ気になっていたことがありました。それは私の父や、夫の両親が早くに亡くなっていること。その後、(その女性に)紹介された“先生”からは『あなたの家には色情因縁があり、悪い大変な家系だ』『夫の父や母が早くに亡くなったのは、家に色情因縁があるからだ』『それを止めないと子供や子孫に悪いことが起こる』とも言われました。私は子供たちを守るためにはこの色情因縁を絶たなければならないと思った」といいます。
その後、自らも信者になって旧統一教会に所属するようになってからは「礼拝の時には絶対信仰、絶対愛、絶対服従を誓うと唱えさせられました。先祖の因縁からくる不幸があるので、(良い)因縁を積むために、統一教会の言う通りにしなければと思い込んでいました。それでたくさんの献金をしてきました」
A子さんの夫は53歳で亡くなります。
「それを教会の人に伝えると『(あなたに)信仰がないから亡くなった』と言われました。先祖への(良い)因縁を積むことができなかったために、夫は亡くなった、と。もっと(良い)因縁を積まなければ、また家族の誰かが早く亡くなったり、悪いことが起きたりするかもしれないと思い、改めて怖くなった」と話します。
A子さんの身の回りに起こった不幸に乗じるように、教団は献金を強いてきたそうです。
「ますます統一教会の指示に従って、献金を求められればしないといけないと思い、献金をし続けて、財産は何もなくなりました。信者だった息子が教会に自宅を担保にしてのお金を借してあげたいというので協力しました(※)。そして教会から返金してもらう際、私も(献金などの返還請求・損害賠償請求など裁判上・裁判外を問わずいかなる請求も行わないとする)合意書の書類にサインをさせられました。
そして何年か経って、献金の返金請求をしようと考えるようになり、弁護士さんに相談して(教団に)手紙を送ってもらいました。しかし『合意書に献金の返金要求など、いかなる請求を行わないと書いてあるから』という理由で、教団側に拒絶されました。1審では、その合意書が有効だということで私の請求は却下されてしまいましたが、一昨日、高等裁判所がそれを無効とする判決をしてくれました」
※筆者註:多くの場合、借り入れの形で教団にお金を渡すと、献金扱いになる
A子さんは「私の当時の状態をわかってもらえたと思い、ほっとした」と話します。今回の判決について、佐々木大介弁護士は司法記者クラブの会見で次のように解説しました。
「(高等裁判所では)基礎合意を有効として訴えを却下した判決を取り消して、東京地裁に差し戻すという判決が出ました。基礎合意は『公序良俗に反して無効』だという理由です」
今回の判決には、2020(令和2)年2月に東京地裁が出した先例の判決があるといいます。
「この事件では、同じく『公序良俗に違反し合意は無効』という判決なんですが、今回の判決では、合意書を書かされた信者の状況について、より踏み込んだ判断をしています」