もちろん、ミイデラゴミムシは、ただおならをしているわけではない。ミイデラゴミムシが噴出するガスは、身を守るための武器である。ミイデラゴミムシの出すガスは悪臭がする。さらにこのガスは温度が一〇〇度に達するほど高温で、天敵の鳥やカエルに火傷やけどを負わすほどの威力がある。

それにしても、この小さな虫が、どのようにしてこれほどの危険なガスを体内に蓄えているのだろうか。

ミイデラゴミムシは、体内の器官でヒドロキノンと、過酸化水素という二つの物質を別々に生成する。この二つの物質はそれぞれ危険のない物質である。ヒドロキノンは、脱皮後の外皮を堅くするときに利用する物質であるし、過酸化水素は、細胞の生体防御反応に用いられる物質である。

ミイデラゴミムシ(写真=KKPCW/CC-BY-SA-4.0/Wikipedia)
ミイデラゴミムシ(写真=KKPCW/CC-BY-SA-4.0/Wikipedia

敵を狙い撃ち、連続発射もできる

ミイデラゴミムシは、危険が迫ると体内でこの二つの物質を混ぜ合わせて、酵素を加える。すると急激な化学反応が起こって、ベンゾキノンという高温のガスが生成される。そして、ミイデラゴミムシは敵に向かってその高温のガスを吹き付けるのである。

噴射口は肛門こうもんではないから、けっしておならではない。しかも、おならと違って噴射口の向きを変化させて、敵を狙って発射させることができるし、連続発射も可能である。いたって高性能な武器なのだ。

驚くべきことに、二つの物質を混ぜ合わせた化学反応によって高温のガスを噴射するという仕組みは、ロケットエンジンの仕組みと同じである。ミイデラゴミムシは、どのようにしてこんな複雑な方法を身につけたのだろうか。どうやって、この化学反応を見出したのだろう。

現代の進化論では、進化は突然変異と環境に適したものが生き残るという淘汰とうたが、少しずつくり返されることによって起こると考えられている。しかし、少しずつの進化で、危険なガスを武器にする高度な仕組みを完成させられるのだろうか。ミイデラゴミムシの武器は、現代の進化論だけでは満足な説明ができないほど完成度が高いのである。

しかし、進化論の説明など人間が考えれば良いことだ。ゴミムシの暮らしには何の関係もない。だからね、「へこき虫」なんてひどい名前をつけられても、ゴミムシも、そのままでいいんだよ。

1秒間に200回ものスピードではばたく翅

②イエバエ

「五月蠅い」と書いて「うるさい」と読む。

ハエはうるさい存在だ。これは、かの文豪の夏目漱石なつめそうせきの当て字だという。うまいことを言ったものである。もともとは、騒がしいことを「五月蠅さばえなす」と言ったらしい。

それにしても、ハエはうるさい。追い払っても追い払っても、ハエはやってくる。ハエがいなければ、どんなに静かに暮らすことができるだろう。神さまはどうして、こんなうざい生き物をお創りになったのだろう。

ハエはブンブンという羽音がうるさい。じつは、ハエは一秒間に二〇〇回ものスピードではばたくことができる。そのため、ブーンという高い周波数のうるさい羽音を立てるのである。