30分早歩きしても少しのお菓子で相殺される
運動が健康維持に役立つことは広く認められています。
中高年のサラリーマンA氏は定期健診で体重・血糖値・中性脂肪が高いことを指摘され、習慣的に適度な運動をするよう勧められました。仕事に追われる毎日で十分に時間が取れないことから、帰宅時に最寄り駅の一つ前の駅で下車し、30分ほど早歩きして帰宅することにしました。初めは苦痛に感じていたものの、慣れてくると多少の爽快感も感じるようになりました。
しかし運動をしているからということで気を許してポテトチップスを8枚程度食べてしまうと、消費カロリー分は相殺されてしまいます。成人が早歩きで30分程度歩くと軽く汗をかきますが、それでも消費カロリーは100kcal程度です。かなり負荷のかかる運動をしない限り、痩せるほどのカロリーは消費しません。
また、ある程度のカロリーを消費すれば食欲が増し、摂取カロリーはかえって上昇します。公表論文によれば、推奨される運動量に達していなくても習慣的な運動を続けていれば、まったく運動をしない人と比べて死亡リスクが20%程度低下することがわかっています。
筋トレをすると体はどのように変化するのか
運動により健康増進効果が得られることには、どのようなメカニズムが作用しているのでしょうか。
腹筋や腕立て伏せなどといった筋肉トレーニングは速筋(白筋)で糖質をエネルギー源とし、瞬発力を発揮する無酸素運動で、ウォーキングや水泳などは遅筋(赤筋)で脂質を燃焼する有酸素運動です。
いずれの運動においても体内でエネルギーを消費する際には高エネルギー貯蔵物質であるATP(アデノシン3リン酸)が分解され、AMP(アデノシン1リン酸)へと変換されます。骨格筋細胞内のAMP濃度が運動のエネルギー消費により上昇すると、細胞質の酵素AMPキナーゼが活性化されます。AMPキナーゼはα・β・γの3サブユニットから成る三量体タンパク質で、αサブユニットがリン酸化されると活性型となります。
通常、生体内でタンパク質のリン酸化/脱リン酸化は一定のリン酸化状態を保っており、リン酸が付いたり離れたりを繰り返しています。運動によりAMP濃度が上昇するとγサブユニットにAMP分子が結合し、αサブユニットのリン酸基の離脱が抑制されます。こうして長時間、αサブユニットがリン酸化状態を保ち、活性化状態が維持されることになります。