「一線」を超えるトンデモ発言

このような土壌の中で、時には「一線」を超えるような問題発言も生じる。

福井県では、県議を6期務めた自民党の斉藤新緑氏(2023年に落選)が現職時代、自作の議会報告「ほっとらいん」の中で真偽不明な情報やデマを唱えていたことがメディアに取り上げられ、問題となった。

2021年から今年3月までに発行された「ほっとらいん」を読んでみる。

〈バイデン親子は、国家反逆罪で、逮捕されており、多分、この世にはいません〉
〈(毎年)日本では3万人もの子供が誘拐され、行方不明になっています。悪魔崇拝者の「儀式」に子どもたちが「生贄」として供され、性的・肉体的に虐待されています〉
〈(ロシアのウクライナ侵攻を映した)テレビの映像は、全部、作られたものです(略)。(地下には)子どもたちが囚われていて、ロシア軍は何万人もの子供を救出しました〉

まるで、新興宗教の布教本のようだ。

福井県議会棟
福井県議会棟。ベテラン議員が真偽不明な情報やデマを唱えて話題となった(写真=Hirorinmasa/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

自民党は「陰謀論」を唱える県議を公認

問題発言には「意図的でないもの」と「意図的なもの」の二つがあると思う。斉藤氏の発信している内容は、何らかの確信に基づく意図的なものだ。2021年に複数のメディアが斉藤氏の発信内容を「問題発言」として報じても、斉藤氏は発信を止めなかった。

そう考えると、私は斉藤氏の発言以上に、所属する政党の対応に問題を感じる。斉藤氏の議会報告が報道で問題視されて以降の2023年4月の県議選に、斉藤氏が自民党公認候補として出馬している。斉藤氏は自民党県連幹事長などの要職を歴任してきた。落選はしたものの、結果的に県議選で5344票を獲得している。自民党が公認候補にしたということは、党として、問題のある執筆内容や発言を「さしたる問題ではない」と捉えたともいえる。

明らかに「おかしい」と感じても、いさめることができない。止めることができない。これは、地方議会や政治が、非常に硬直化しているという証ではないだろうか。組織に新陳代謝があり、風通しがよければ「空気」など読まずに「おかしいんじゃないですか?」と言う人がいるはずだ。そういう人が多ければ多いほど、議会は活発化する。それが機能していないがために、問題発言は放置され続けたのではないだろうか。