アマゾン値上げを牽制する「楽天」の存在
ではもし楽天グループが経営破綻するようなことがあれば何が起きるのでしょうか。確実に起きることは、さまざまなネットサービスの大幅な値上げです。
たとえばアマゾンプライムの年会費です。アマゾンプライムの年会費は今年8月、それまでの4900円から5900円へと値上げされました。アマゾンの送料が無料になるプライム会員にとって、値上げは打撃ではあるのですが、実は海外のアマゾンプライム会員の年会費と比較して日本の年会費は激安な設定になっています。
アメリカのアマゾンの年会費は139ドルで、これは1ドル=150円のレートで換算すれば年額2万850円に相当します。日本の年会費が3分の1よりも少ない理由は何かというと、アマゾン本社から見れば日本に楽天市場が存在することがその最大の理由です。アメリカと同じようにプライム会費を2万円に値上げすれば、アマゾンを離脱する会員が大幅に増加するでしょう。その受け皿として楽天市場が存在することを考えると、アマゾンは安易に価格を値上げするわけにはいきません。
アマゾンプライムの年会費が低く抑えられていることで連鎖的に起きているのは海外のサブスクサービスの低価格化です。アマゾンビデオの視聴者が直接のライバルとなるネットフリックスは、スタンダードプランの月額利用料を990円に抑えています。ネットフリックスはアメリカではスタンダードプランの月額は15.49ドルで円換算すれば月額約2300円ですから、日本の価格は半額以下に設定されていることになります。
音楽のサブスクのスポティファイも同様で、アマゾンミュージックの価格が安く設定されていることから日本ではスタンダードなプランの月額は980円。これに対してアメリカでは10.99ドル(約1650円)とやはり割高です。
楽天経済圏が崩壊するとき、値上げラッシュが起きる
このように楽天市場が存在することでアマゾンが牽制され、アマゾンの低価格のおかげで他のサブスクが牽制されるという構造が、わたしたち日本人のネット生活を快適にしています。
スマホ料金も同じで楽天モバイルが存在することで、携帯3社があそこまで格安な携帯プランを用意することになったわけで、楽天モバイルがなくなってしまえばスマホプランは以前に戻ることはなくても月額4000~5000円の水準に逆戻りしてしまうでしょう。
私は本業の戦略コンサルタントとしては実は一度も楽天グループと仕事をしたことはありません。むしろ他の携帯キャリアやサブスクサービスの仕事をしてきていて、その意味で楽天グループの存在はこれまで目の上のたんこぶのような存在に感じてきました。
その立場であらためて楽天が存在するという構造について考えると、日本経済全体から見れば壊れないほうが庶民へのメリットは大きいのです。あくまで中立の立場でお伝えすると、楽天モバイルに移ることができる人は、いまのうちに楽天モバイルに移ったほうがいい。そうしないと日本のネット生活を裏で支えてきた楽天経済圏というエコシステムは、いつ崩壊するかわからない。そしてそれが崩壊するときは、他社のサブスク料金が一斉に値上がりし始めるときなのです。