世界は制約のないAIを生み出すべきか?
AI脅威論の議論を聞くたびに、原子力のことを思い出す。
人間はパンドラの箱を開ける生き物だ。アインシュタインの相対性理論から始まった原子力の技術も、人間は利用しようとしている。
そして原子力で爆弾を開発するのか、原子力を発電所として利用するのか、その利用方法は人間に委ねられている。私は賢い人ほど争いを避け、その技術を世のために使うはずだと考えている。
【茂木】今、人工知能を取り巻く業界で最大の注目を浴びているのは「AGI(汎用人工知能)」「ASI(人工超知能)」への道です。両者は平たくいえば、制約なくなんでもできる人工知能のことです。
AGIの開発競争は軍拡競争時代のマンハッタン計画に比肩する国家プロジェクトとして議論されています。なぜなら、汎用人工知能は人類を滅ぼす危険性があると多くの研究者は考えているからです。だとすれば、慎重なコントロール下で研究開発が行なわれなければならない。日本では話題になることが少ないですが、英語圏では差し迫った議論が行なわれているのです。
なぜ日本は「関係なく」なってしまったのか
3月にGPT-4が出て以降、海外では凄まじい勢いでAIの議論が進んでいます。
残念ながら日本は蚊帳の外で、海外の多くのAI企業は日本を市場の一つとしか考えていないのでしょう。
OpenAIとパートナーシップを結んでいるマイクロソフト、OpenAIの創立者の一人でもあったイーロン・マスク、メタのザッカーバーグなどの巨人同士が激突し、巨額の投資が行なわれています。もちろん、世界中の才能がこの領域に集結していきます。成功すれば巨万の富と名声が得られるのですから、お金も才能もそこに集まるのは当然です。
また、企業だけでなく国家間での動きも注目されています。倫理や危険性の問題はありつつも、中国をはじめ、イスラエルなどの国が積極的に参入し、アメリカでは「自国でやらなければ結局中国がやるだけだ」といった議論まで出ています。
残念ながら、日本は、新しい技術に対する好奇心や、それを探求する知性を重視してこなかったのではないでしょうか。日本のメディアを見ていても二番煎じ、三番煎じで、どうでもよい情報しか流していません。その結果、日本はこうした世界の動きから「関係なく」なってしまいました。
ただ日本のよいところとして、「気づけばパッと変わる」という性質があるように思います。そろそろ目覚めてほしいところです。今は、わずかな抵抗として、自分のところに来る学生には、こうした議論を伝え「頑張ろうぜ」と励ましています。