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参議院議員と自治体首長の兼職も検討すべき

今回、世論からの批判を受け、当の維新自ら、「兼職禁止の法案を出す」と発表しました。次の臨時国会で議論されるようです。でも、ちょっと待ってくれと僕は言いたいですね。これは最悪なパターンのルールづくりだよと。今回の一連の騒動は、「リーダーがしてはいけない決定プロセス」の典型例だと思うのです。

何か“問題”が浮上し、世論やメディアから一斉に非難の声が上がる。それを受けたリーダーが間髪をいれずに「問題是正」の改革案をぶち上げる。これは一見世論を汲んだ迅速な対応に見えますが、僕に言わせれば稚拙なリーダーシップと言わざるをえません。責められたから改める。そこに厳密な理由や本質的な問題意識はあるのでしょうか。もしそれらがなければ、その問題是正策は真の効果を発揮せず、形だけの策に終わってしまいます。そう、コロナ時期の「新型インフルエンザ等対策特別措置法一部改正」や、「旧統一教会の被害者救済法案」のように。

最近では「LGBT理解増進法」も同様の道をたどっています。一見「多様性社会」への一歩を踏み出したかのように見えますが、この法律は、社会がLGBT当事者にどのように対応したらいいのかという一番悩ましいところへの解とはなっていません。つまり社会に対して具体的なルールを示しておらず、俺たち国会議員は多様性ある社会のことをしっかり考えていますよ! というアピール以外には何の効果も発揮しません。デパートやその他多くの人が集まる民間の施設では、トイレや更衣室などにどのようなルールを設定したらいいのか混乱が生まれています。生物学的な意味での男女の区別はある場面では必要なのか、それとも一切なくすのか、どちらを選択しても世間からの批判を浴びる肝心のルールを決めずに、「知識の普及」や「研修の実施」などの文言が躍るばかりです。

問題是正策という「改革」とは、常に「原因・理由究明」と「対策案」がワンセットであるべきです。ところがLGBT理解増進法も今回の市議と公設秘書の「兼職禁止」案も、その2つがすっぽり抜け落ちてしまっています。

兼職禁止とされる理由は何か。ここの究明が重要なのです。一番の大きな理由は「報酬の二重取り」でしょう。世間が兼職に批判を浴びせたのもこの点がメインです。兼職しても報酬は一人分か、せいぜい増えた仕事量に応じて数割増加程度なら国民理解も得られるでしょうが、2人分は取りすぎです。

では、報酬の二重取り以外に兼職に問題点はあるでしょうか。世間の批判があるから直ちに兼職禁止という思考は安易すぎます。

記者インタビュー
写真=iStock.com/microgen
国会議員公設秘書と市議との兼職問題発覚を受けて、与野党ともに「兼職禁止」のルール化を主張するが……。

法律の世界では「立法事実」の議論が大切です。法律制定の際、その法案の合理性を支える根拠や事実がどこにあるか。仮に「兼職禁止」の法律をつくるなら、それ相応の根拠が必要です。なぜ兼職がいけないのか、兼職するとどんな不具合が生じるのか、それらの不具合を防ぐにはどんな法律が必要か、それらを論じるのが「立法事実議論」です。その議論が曖昧なまま「兼職禁止」と決めつけるのは、余計な禁止領域を広げてしまい、かえって兼職によるメリットを抑え込んでしまうのです。「兼職禁止」の理由を具体的に考えていくと、他の法律などにヒントがあります。例えば地方議員や国会議員は裁判官になれませんし、警察官や検察官にもなれません。理由は明確で、チェックする側とされる側が一緒ではチェック機能が働かないからです。

あるいは地方議員が教育委員や公安委員、人事委員や固定資産税などの評価委員になることもできません。政治的中立性、客観的公平性を担保するためです。また役所から公共工事などを受注する業者との兼職も不可です。両者の癒着を防ぐためです。

こうしてみると現状の「兼職禁止」にはそれぞれ明確な根拠があることがわかります。では地方議員が国会議員の公設秘書を兼ねることの弊害には、どんな明確な根拠があるでしょうか。