あまりにしつこい「ドラキュラ男」
「もしかすると」という期待は見事に裏切られた。銀座の合コンで出会ったスマートな男性たちとは全く違う。ひとことでいえばガツガツしていて下品なのだ。
「ねー、LINE交換しようよ」
「このシウマイ、俺の息子なみにでかい」
……まったく笑えない。早く帰りたいと思った。しかし取材時の習性で、つまらない、くだらないと思っていても微笑んでしまう。
リーダー格風の50代男性は、会費に含まれていないビールを「注文するから飲もう。俺がおごるから」と誘ってくる。あんまりしつこいので飲むことにした。すると、店員がやってくるたびに「(婚活パーティ参加費の)オーバー分は俺が払うから」と親指を立て、自分を指さす。その男性は浅黒い肌で、笑う時に口がカッと横に開く。襟を立ててシャツを着ている様子がドラキュラに見えたので、私は心の中で「ドラキュラ男」と命名した。
「ひろこさん、2次会に行こうよ」
ドラキュラ男がまた何度も言う。まったく気が進まないが、私の隣に座るくるんくるんの巻き毛のショートカットの女性、アミさんも微笑んで「2次会に行きましょ」と耳打ちしてくる。アミさんはドラキュラではない別の男性がタイプらしい。
私以外の3人の女性が2次会に行くというので断れなかった。場の雰囲気を壊したくなかったのだ。
次々に運ばれてくる料理を性器にたとえる
2次会はドラキュラ男の行きつけの居酒屋。彼は私の正面に座り、顔を近づけてくる。
「近いですよ」
座敷だったので座ったまま後ずさりする。「ひろこさん、いい男がいないとか思っているんでしょ」とドラキュラ男。図星だが、さすがにそうとは言えない。でも心から帰りたい。
「女性のみなさん、今日は男性陣がおごりますから、どんどん飲んでください」
ドラキュラ男は立ち上がり、そう宣言すると、次々に運ばれてくる料理を性器にたとえて、また下ネタを連発する。本気で吐きそうになった。
やがて空になったグラスにドラキュラ男はみなが使ったおしぼりや割り箸などを詰める。
「それなんか嫌だな。おじさんっぽいし、見た目が汚い」
私がそうつぶやくと、突然ドラキュラ男が真顔になった。