場貸しのビジネスモデル
電子モールは一種の場貸しビジネスである。銀座4丁目を目指したという楽天市場は、文字通り、市場を運営し、そこに出店したいと思う店舗を取り込んでいくことになる。当初はコネで集めたという13店舗は、徐々にその数を増やし、2004年には1万店舗に到達する。
当時の新聞記事を見直すと、東急百貨店を代表とした百貨店ともいろいろと組んだビジネスを展開していたことがわかる。百貨店といえば、今では場貸しビジネスとして批判されることもある(実際には、委託仕入れや消化仕入れという仕組みが多く、テナントの売上が販売時点で百貨店の仕入れとして計上されるため、簡単に場貸しとはいえない)。同じビジネスの仕組みを有するという点で親和性が強かったのかもしれない。やがて、東急百貨店は自ら電子モールe109を企画するなど、独自の展開をみせていった。
楽天としては、いずれにせよ市場に出店してくれる店舗を増やさねばならない。ネットベンチャーにしては珍しく、体育会系ののりで営業に力を入れていたという。費用という点では、出店費用は月5万円からと極めて安く押さえ、出店してくれる店舗とともに楽天市場の魅力を高めていくことを狙った。出店者には、「一緒に走りましょう」と語っていた。
当時の楽天スタッフと出店店舗の関係は特に強かったようだ。ECコンサルタントとよばれる人々がそれぞれ店舗を担当し、どうすれば売上が上がるか、何が今必要かを細かくやりとりする。断片的な資料だが、新聞記事などでひろっていくと、1997年7月に早々に配置されたECコンサルタントは、2000年頃までは15名程度だったが、2000年後半には50名程度に増員され、アシスタントも含めれば100人近くなった。更に2006年には、180人規模で店舗の運営指導に当たり、一方のヤフーショッピングは依然として100人程度の規模だったために苦戦していたという。
それから割り引いて読んだ方が良いかもしれないが、『楽天物語』(上阪徹、講談社、2009)という書籍には、9社の出店やその後のビジネスの歴史がまとめられている。いずれも興味深く、苦労してビジネスを立ち上げてきたことがわかるが、しばしばその中ではECコンサルタントの話がでてくる。特にラ・ベルジェという企業では、始めて月商が500万円を超えたとき、その超えた瞬間の深夜3時にECコンサルタントからおめでとうの電話がかかってきて感動したというエピソードが記載されている。
楽天と出店店舗の関係でいえば、さらに、楽天大学という出店店舗にノウハウを伝える講座も2000年から行われるようになった。その具体的なノウハウは、『楽天市場公式 ネットショップの教科書』(三木谷監修、インプレスR&D、2007)にのっている。これ以前にも、出店者には百頁あまりの部外者には秘密のマニュアルが提供されたり、3ヶ月に1回は勉強会をするなどしていた。こうした場は、ネットショッピングというビジネスのやり方を学ぶことはもちろん、同じように出店を目指す仲間(であり、ライバル)と出会う機会を提供してきたようだ。