熟年離婚で女性のストレスは減少する

近年は「熟年離婚」という言葉をよく耳にするようになりました。テレビドラマだけでなく、身近でもしばしば話に聞きます。厚生労働省がまとめた「人口動態統計特殊報告」によれば、2020年の全離婚件数は約19万3000件で、2003年以降減少しています。しかし、同居期間が20年以上の、いわゆる「熟年離婚」は戦後ずっと上昇傾向にあり、2020年には離婚全体の21.5%を占めるようになりました。

離婚したカップル5組に1組以上が熟年離婚という計算です(*2)。熟年離婚のよくあるパターンは、夫の定年退職をきっかけに妻が離婚を言い渡すというもの。子どもはすでに手が離れており、これからの人生をずっと夫と一緒に過ごすのはごめんだという人が多いようです。

もちろん、どの世代の夫婦でも、離婚によって幸福度が下がることはデータからも明らかです。しかし、熟年離婚ではとくに際立った特徴があることがわかりました。拓殖大学の佐藤さとう一麿かずま教授が、熟年離婚後の夫婦のメンタルヘルスの変化を調査したところ、男女とも離婚した年のメンタルヘルスが悪化するものの、その後に違いがありました(*3)。女性は急速に回復していくのですが、男性は回復しないままだというのです(図表1)。女性のメンタルヘルスが回復するのは、我慢を強いられた結婚生活から解放されて、ストレスが減少したことに由来するかもしれません。

経済的に不安がある女性は少なくないかもしれませんが、それ以上に解放感のほうが大きいのだと想像できます。友人との語らいや趣味のサークルなどに、積極的に参加するようになるようです。

(*2)厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況
(*3)Sato, K. (2017) The rising gray divorce in Japan: Who will experience the middle-aged divorce? Does the middle-aged divorce have negative effect on the mental health? Presented at International Population Conference of the International Union for the Scientific Study of Population.

男性は離婚後に抑うつ状態になりやすい

それに対して男性のメンタルヘルスが回復しないことには、離婚後の地域や社会との関わりが関係しているように思えます。趣味の活動や地域行事へも参加せずに孤独感を深めていく人が多く、不健康な生活が続いて抑うつ状態になる傾向が強いようです。こうした男性の孤独感は、残念ながら今も続く日本の男女不平等社会の影響がめぐりめぐって身に降りかかったものだと考えられます。

現在の高齢者にあたる男性が、家事一切を妻がするのは当然だという認識でいた場合、奥さんがいなくなると身のまわりのことが何もできません。そんな生活力のない男性が1人にされて、炊事や洗濯もできないまま、周囲から孤立してしまうのかもしれません。逆に女性は、家事はもちろん、夫への気遣いも無用になって元気になるのでしょうか。いってみれば、男尊女卑の風潮のもとで楽をしてきた男たちが、離婚でしっぺ返しを食らっている皮肉な図式にも見えます。

男性のためにも女性のためにも、早急に差別のない社会を実現すべきでしょう。