「パートナーが最良の友」と答えた人のほうが幸福

結婚と幸福度については、世界規模のおもしろい研究結果があります。

いくつもの研究データを総合したメタ分析によると、「パートナーは最良の友」と感じている人が、「パートナー以外が最良の友」という人よりも満足度が高いことがわかりました(*1)。「パートナーが最良の友」が理想だというわけです。

もちろん、パートナー以外の友がいることも大切ですし、いろいろな生き方があるとは思いますので、1つの学術研究の結果と捉えていただければ幸いです。長年夫婦として連れ添っていると、相手に感謝の言葉を発することが減っていきがちです。妻が仕事から帰って疲れた体で料理をつくっても夫がむっつりしていたり、食後に夫が自慢げに皿を洗っているのに対して「お皿を洗ったぐらいで家事した気になるんじゃないわよ」と怒ったりする夫婦もあるでしょう。

そんなとき、「疲れているのに悪いね。おいしいよ、ありがとう」「お皿を洗ってくれてありがとう」と口にするだけで、雰囲気はずいぶん変わると思うのです。そうすれば、「いやいや、定年後はもっとやるよ。いつもすまないね」と夫は答えるかもしれません。本当は仲が悪いわけではないのに、コミュニケーション不足で仲が悪い錯覚に陥っている夫婦が日本には多いように思います。

(*1)Grover, S., & Helliwell, JF. (2014). How’s life at home? New evidence on marriage and the set point for happiness. National Bureau of Economic Research Working Paper 20794.

「10倍の感謝」が人間関係を良好にする

興味深いエピソードがあります。私(前野)が、「職場の雰囲気をどうやってよくすればよいか」というテーマで取材を受けたときのこと。私は担当の女性に対して、「部下や同僚への感謝を10倍にしましょう」という趣旨の話をしました。すると、それが記事になる前に、その女性からメールが届きました。

「私は夫との間が冷え切っていて、夫が定年になったらどうやって生きていこうかと思っていたところでした。そんなとき、前野さんの言葉を聞いて、感謝10倍を試してみたのです。そうしたら、新婚当時のようなラブラブに戻ったではありませんか。ありがとうございました」

手を重ね合わせる老夫婦
写真=iStock.com/Koji_Ishii
※写真はイメージです

これには驚きましたが、感謝の言葉にはそれほどの効き目があるのだと再認識しました。また、大学でカップルの幸福度について考えるワークショップを、6回シリーズで実施したことがあります。夫婦やパートナーが50組ほど参加したのですが、それはそれは忘れられない経験でした。

例えば、「感謝を隣の人とシェアしてください」と私がいうと、それぞれの愛の形が多様だったのが印象的でした。しかも、驚くほどみんな仲がよさそうでした。もともとラブラブだったカップルばかりではありません。その変化には圧倒されました。終わってから感想を書いてもらうと、「実をいうと、最近はずっと仲が悪かったのですが、おかげさまで仲よくなりました」というコメントがいくつかありました。

なかには、「別の人にもプロポーズされていて、そちらにしようかと迷っていたのですが、この人に決めました」というコメントもあってびっくり。ドキドキするような素敵なコメントばかりだったのです。

幸福学の「ありがとう因子」の力を垣間見た瞬間でした。