半導体の小型化が遅れた原因
スマートフォンの急速な普及への対応も遅れた。大手電機メーカーの業績は悪化し、チップの製造技術向上に必要な、巨額の設備投資を負担することは困難になった。2012年2月には、エルピーダメモリ(当時)が破綻した。
半導体に代わって、これまで自動車産業が日本経済を支えてきた。特に、ハイブリッド自動車(HV)の開発は大きかった。HVの普及などによってマイコン、パワー半導体、画像処理センサなど、車載用の半導体需要は拡大した。自動車は、スマートフォンやタブレット型のPCよりもサイズが大きい。半導体の小型化、消費電力性能の向上の必要性は高まりづらかったともいえる。
ただ、国内の半導体産業の変化は勢いづいている。熊本県に建設している第1工場において、TSMC、ソニーおよびデンソーは回路線幅12~28ナノメートルのロジック半導体を製造する予定だ。2024年末までの稼働を目指す。投資総額は1.2兆円程度だ。
TSMCは第2工場で回路線幅6ナノメートルのロジック半導体の製造も目指す。投資総額は約2兆円、経済産業省は最大9000億円の支援を検討しているという。それはわが国の産業競争力にかなりの影響を与えるだろう。
世界の半導体需要はスマホ→人工知能へ
足許、世界の半導体産業界では二極分化が鮮明だ。最先端のロジック半導体の製造に関して、旺盛な需要を背景にTSMCはモメンタムを発揮している。一方、汎用性の高い製品群の割合が相対的に高い、韓国サムスン電子などは苦戦を強いられている。
これまでTSMCは微細化を推進し、アップル、エヌビディアなどが設計したスマホや人工知能向けのチップの受託製造契約を獲得した。TSMCはスマホ向けのチップ需要を取り込んだ。
ただ、スマホ需要が拡大し続けることは考えづらい。2023年4~6月期まで8四半期連続で世界のスマホ出荷台数は減少した。リーマンショック後の世界経済のデジタル化、それによる経済成長を牽引したスマホ需要は飽和したといえる。
2022年12月、TSMCは回路線幅3ナノメートルのチップの製造を開始した。ほぼ同じタイミングで人工知能の利用も急増した。そのペースは想定を上回るとの見方も多い。AIの深層学習などに用いられるGPUの開発でエヌビディアはAMDなどに先行した。TSMCはエヌビディアのGPU、“H100”、最新の“B100”の製造を担う。