「TSMCとそれ以外」の差が鮮明に
より高性能なGPUは、AIの性能向上に欠かせない。それは、経済全体への波及効果や効率化の向上に結びつく可能性が高い。世界全体でGPUの争奪戦が起きた。中東地域ではサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が、エヌビディアのGPUをより多く購入しようとするなど、企業だけでなく国家も巻き込んだ争奪戦が繰り広げられている。
需要の急増に対し、現在GPUの供給は十分ではない。エヌビディアは、新製品投入スピードを引き上げようとしているようだ。AIの利用増、それに伴う経済成長の実現に、TSMCの果たす役割も高まる。当面、GPUの需要は増加し、価格も上昇するだろう。
韓国のサムスン電子はTSMCとの製造技術の差を縮めるべく、韓国国内や米国などで大規模な設備投資を実行した。わが国にも研究拠点を設けるようだ。
ただ、サムスン電子は、相対的に汎用性の高いDRAMなどメモリ半導体を得意とする。回路線幅3ナノメートルのロジック半導体の量産を始めはしたが、良品の割合を増やすことは難しいようだ。最新のAIにかかせないGPUに関してTSMCとそれ以外の半導体メーカーの実力の差が拡大する可能性は高い。
政府はこの機を逃してはならない
TSMCによる回路線幅6ナノメートルのチップ製造をきっかけに、わが国政府は国の政策として半導体関連産業の成長を強力に支援すべきだ。今後、世界全体で、汎用型から最先端まで、ありとあらゆる分野で半導体の重要性は高まる。戦略物資としての半導体の生産能力の強化は、わが国の国力に直結する。
先端の半導体工場を1つ建設するために2兆円、あるいはそれを上回る資金が必要になる。民間企業が巨額な設備投資のリスクを負担し続けることは難しい。経済安全保障体制に直結する半導体を民間任せにすることも必ずしも適切ではないだろう。
経済産業省は、2023年度の補正補予算案にて計3兆3550億円を要求したようだ。政府に期待したいのは、裾野の広い半導体産業全体の底上げを目指すことだ。わが国には、超高精度の半導体製造装置や検査装置、超高純度の半導体関連部材の分野で、世界的に高い製造技術を持つ企業が多い。