世界有数の技術が日本で量産される

ここへきて、半導体の受託製造(ファウンドリー)最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本第2工場の計画が明らかになり始めた。報道によると、同社は第2工場で回路の線幅が6ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)のロジック半導体の製造を目指す。国内で先進半導体の製造が可能になると、そのインパクトはわが国の半導体関連業界に大きな影響を与えることになりそうだ。

世界的半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場(左)、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社の熊本テクノロジーセンター(右)、東京エレクトロン九州株式会社(奥)(=2023年9月20日、熊本県菊池郡菊陽町)
写真=時事通信フォト
世界的半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場(左)、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社の熊本テクノロジーセンター(右)、東京エレクトロン九州株式会社(奥)(=2023年9月20日、熊本県菊池郡菊陽町)

世界の半導体業界では、二極分化とも呼べる現象が鮮明化している。“チャットGPT”や人工知能(AI)の学習に欠かせない、高度な画像処理半導体(GPU)の生産に関しては旺盛な需要を見込むことができる一方、汎用性の高い半導体に関しては需要の戻りが鈍い。

今後、より高性能のGPUなど最新チップの需要は増加し、価格も上昇するだろう。供給のかなりの部分がTSMCに依存している。現在、6ナノメートルの製造ラインはGPUの供給にも欠かせない。一方、主に車載用の半導体など汎用型のチップの需要は大きくは盛り上がらず価格も高まりづらいだろう。

そうした展開が予想される中、米国も欧州委員会も経済と安全保障体制を強化するために、最先端に近い半導体工場の誘致を急ぐ。わが国は、新しい産業を育成し経済の実力を高めるために、米欧に引けを取らない産業政策を立案、実行すべき時を迎えた。

世界シェアの50%以上を持っていた日本

2021年6月に経済産業省が公表した資料『半導体戦略(概略)』によると、わが国のロジック半導体の生産能力は回路線幅40ナノメートルで止まった。今後、国内の半導体メーカーが高精度の半導体生産を手掛ける計画はあるものの、現時点で国内の半導体メーカーが40ナノメートルよりも細い回路線幅のチップを製造することは難しいとみられる。

資料には国内の主なロジック半導体工場の製造能力が掲載された。ルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市、1985年から操業)の製造レベルは、回路線幅40ナノメートルだ。同社の熊本川尻工場(1969年から操業)の製造能力は130ナノメートルだ。台湾のUMCの三重工場(もとは富士通の工場、1984年から操業)も40ナノメートルだ。

現在のTSMCの製造能力に比べ、製造能力にはかなりの差がある。背景として、1990年代以降、わが国の電機メーカーは世界的な競争力を失った。1988年の時点では、世界の半導体産業における日本のシェアは50.3%だった。その後日米半導体摩擦やバブル崩壊の影響もあり、電機メーカーは半導体の精密度の上昇や国際分業にうまく対応できなかった。