時々、携帯電話が鳴る。
「切っとくわけにもいかないし、上司からだと出ないわけにも……あわてて出たふりをして『すぐ折り返します』とか」
今まで仕えた上司は3人。
「最初の40代上司は、『言ったことをすべてメモしてこい』『とにかく話を聞いてこい』と細かかった。よく叱られたから腹は立つけど、納得はします。やはり売った人が上に立ってる」
初めて売れたのは、現場に出て4~5カ月目。同期の中では遅いほうだった。
「顧客は何度も通っている企業でした。たまたまそこの機械の調子が悪くて、OKをいただいた。60万円相当でした」
プラスアルファのメリットを付ける、という売り方は、2人目の上司に教わった。そこから年度末までに数百万円を積み重ねた。が、“中の上”からさらなる“上”へのブレークはなし。そうこうするうちに状況は激変。ずるずると“下”に転落した。“嘘”が上達したという。
「特に月末は、何か話がないと帰りづらい。上司への報告? 妄想ですよ、妄想(苦笑)。上司とて、私の訪問先をそう細かくは把握していない。嘘も、時と場合によっては。新人の頃よりもうまくなっています」
昼寝は今もやめていない。なぜ? と問うと、「現実逃避ですね」と即答。自己を客観視できる、といえば聞こえはいいが……。最近は、車の中で寝ることが多くなった。シートに横たわりながら、何の資格を取れば転職に有利かに思いを馳せる。今も、「自分は営業に向いていない」と思っているという。
(岡本 凛=撮影)