「ただし、まちづくり全体をどうするか、という発想が育っていません。いまの区役所に何が足りないかを考えるように指示しています。足りないものがわかれば、本庁に要求します。一方で、区長は局長以上のポストだと標榜されていますが、現在のポジションはそうなっていません。まだまだ市の局長が予算と人材と権限を握っている。いままで以上の大きな改革をするには、大幅な委譲がないと、やり遂げられないでしょう」
天王寺区の水谷翔太区長は、24区長で最年少の27歳。元NHK記者で、この6月まで山口放送局で警察や行政の取材に携わった。「若すぎる」との声も聞かれるが、就任直後から精力的に動いている。
8月10日には区民の前で異例の“所信表明演説”を実施し、「区民の声を集めたい」と話した。所信表明で発表された新事業「あなたの声をつなげ隊」では、職員18人と区民への戸別訪問を行い、小中学校選択制の導入など、区政への意見や要望を聞くという。
「行政と区民とのコミュニケーションのあり方を変えたいんです。区民の意見を集めたうえで、価値判断をお示しする。どんな意見にも『検討します』と答えるのは不誠実です。これまで政治家はご立派な一般論を振りかざしてきましたが、それが地域をダメにしてきた」
これまで大阪市では各区で「区政会議」を開き、区政へのニーズを集めてきた。だが、たとえば天王寺区の場合、20人の区政会議委員のうち半数以上が70歳以上と選出基準が偏っていた。天王寺区は子育て世代が多く、約7万人の住民の半数以上が40歳以下だ。このため水谷区長は、区政会議を従来型の「区政有識者会議」と公募委員から構成される「区政戦略会議」の「二会制」に再構築した。まるで特別区での「区議会」のようだが、水谷区長は「予算案を出すための民意集約の仕組み」と説明する。
「区長の権限は限られています。しかしそれに悲嘆するのではなく、迂回路を探すことがプロとしてやるべきことでしょう。二会制はそのひとつ。市の各局にもロジックを立てて説明すれば、協力は得られるはずです」