2015年の「欧州難民危機」で、ドイツは難民希望者をすべて受け入れた。ジャーナリストの池上彰さんは「ドイツは、ナチスがホロコーストを起こした責任を認め、謝罪と反省を繰り返してきた。子どもの頃からこうした歴史を学んでいるため、難民を受け入れなければならないと考える国民が多かった」という――。

※本稿は、池上彰『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑
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ホロコーストを見て見ぬ振りした“共犯者”

第二次世界大戦中、ドイツは占領した地域でユダヤ人狩りを実行します。ユダヤ人を強制収容所に集めて虐殺していったのです。これはホロコーストと呼ばれます。よく知られているのはポーランドにあるアウシュビッツ収容所ですが、それ以外にも各地に収容所を建設しました。総計600万人ものユダヤ人が殺害されたのです。

第二次世界大戦後、この実態が明らかになると、ドイツは世界中から非難を浴びます。

ドイツ国内にも収容所の跡は残っています。つまり加害の証拠が存在しているので、言い逃れはできません。

もちろんドイツ人が全てユダヤ人の殺害に手を貸したわけではありませんが、ユダヤ人たちがどこかに連行されて行く様子は、多くのドイツ人が認識していました。つまり、積極的に関与しなくても、見て見ぬふりをすることで、多くのドイツ人の“共犯性”が問われたのです。

西ドイツはイスラエルに7兆円超の補償金

この責任をどう取るのか。責任を取らなければ戦後のヨーロッパにドイツの居場所はない。このため旧ドイツは徹底した反省に取り組むのですが、旧東ドイツは、ほとんど取り組みをしませんでした。それが現代のドイツにも影を落としています。まずは西ドイツでの取り組みを見ておきましょう。

たとえば1952年、西ドイツ政府はイスラエル政府との間でナチスの犯罪に関する補償について合意します。2018年末までに約440万人の被害者に483億1200万ユーロ(現在の日本円にして7兆3434億2400万円)の補償金を支払いました。

さらに戦時中ドイツの多くの企業がユダヤ人や外国人に強制労働を行わせた責任を認め、2000年に政府と企業約6500社が強制労働被害者のための基金を創設し、被害者約167万人に44億ユーロ(日本円で6688億円)を支払っています。