「グー・パー・チョキ理論」で競争に勝つ

では、ランチェスター戦略を用いて競争に勝つにはどうしたらいいか。

新商品の販売に関しては、商品のライフサイクルに沿って次のような「グー・パー・チョキ理論」を実行せよと田岡は説く。命名の由来は、じゃんけんの「グー・パー・チョキ」である(図参照)。

まず導入期には「グーの戦略」、すなわち一点集中の戦略を取る。顧客層や商品ライン、ブランド、販売チャンネルを絞り込むということだ。宣伝にはマス媒体を使わず、口コミやチラシなどを活用する。そして価格は、予定よりもやや高めに設定する。

次に成長期に入り、成長前期、高原(プラトー)期を経て成長後期に至ると、販売数量が急増し市場価格の低下が始まる。ここでは多様な展開を進める「パーの戦略」を採用する。すなわち、商品ラインや価格ライン、ブランド、販売チャンネルの多様化である。

やがて販売数量の伸び率が鈍化するか数量自体が減少する。商品の普及率は40~60%に達し、価格競争が始まる。つまり成熟期の到来だ。このときは、多様化の整理を断行しなければならない。すなわち「チョキの戦略」である。

これらのうち最も難しく重要なのがチョキの戦略だ。チョキのタイミング(ターニングポイント)を逃せば、採算が悪化し、最悪の場合は倒産につながることもあるからである。

以上は新商品を開発・投入する際の戦略だが、田岡は後発参入の重要性にも触れ、次のように書いた。

「(長期的には先発型市場に参入することも必要だが)短期的には、後発型でよいから、差別化戦略の内容とコンセプトをしっかりと立てて、勝てる見込みのある市場に参入することも戦略のひとつ」

ランチェスター戦略をいち早く導入した松下幸之助の場合は、より端的に、次の言葉を残している。「よそさんの品もんのええところを徹底的に研究して、何か1つ2つ、足せばええんや」。

このような後発参入(2番手戦略)をランチェスター戦略では「ミート戦略」と呼ぶ。田岡によれば、商品のライフサイクルに沿って次のような参入のパターンが見られる。

最初に後発参入者が相次ぐのは、商品の普及率が市場規模の10分の1程度であるDP(デシピーク)ポイントに達し、成長期に入る時点である。ここから利益が見込めるようになるからだ。

一般に「導入期の売り上げの伸びがよい商品は寿命が長い」といわれる。そこで後発組は、DPポイントに達するまでは注意深く観察を続け、「これはいける」と自信を持ったところで参入する。

後発参入がいちばん多いのは、成長期の前期と後期との間に発生する需要の横ばい期(高原〈プラトー〉期)。ここで先発組を蹴落として、成長後期の上昇線に乗ろうとするのである。

普及率が50~60%となる成長期から成熟期への転換点(ターニングポイント)にも、後発参入のチャンスはある。このときはセグメンテーションを基本とし、用途を絞るとか、安価なPB(プライベート・ブランド)を開発して参入するなどの方法がある。

こう説くと、後発参入が容易であるように思えるかもしれないが、ミート戦略においても実行する能力に劣れば破綻する。それをいかに強化するかもランチェスター戦略には含まれているが、いずれにせよ簡単には競争に勝てないということを肝に銘じておいていただきたい。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=面澤淳市 撮影=澁谷高晴)
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