そして5月――。不安の中で全国きずなキャラバンが始まった。総勢29人のチームが数組に分かれ、いわき市内や県内の避難所を訪問した。

「自分から楽しみたいと思って見にきてくれるのがハワイアンズのお客さんです。しかし避難所のみなさんは、そんな気持ちを持っているわけではありません。受け入れてもらえるか、彼女たちも確信を持てなかったようです」

写真左上=挨拶する双葉町出身のサブリーダー大森梨江さん。会場前列で、実家近くの人たちが見守っていた。写真下=手を握り合い「お互いに頑張りましょう」。写真右上=こらえきれず涙する人も。

写真左上=挨拶する双葉町出身のサブリーダー大森梨江さん。会場前列で、実家近くの人たちが見守っていた。写真下=手を握り合い「お互いに頑張りましょう」。写真右上=こらえきれず涙する人も。

常磐興産広報のI氏はフラガールたちの心情を代弁する。だが、心配は無用だった。「被災者の気持ちが痛いほどわかるので、最初は笑顔もぎこちなかったといいます。でもそれだけに、ふだんは得られないずっしりした思いを共有できた。だからみんな、『行ってよかった』と言いますね」(I氏)

地元を巡ったあとは、首都圏や西日本への遠征である。

5月12日、埼玉県加須市。福島県双葉町の町民約1300人が集団避難している県立高校の校舎跡が県外での初舞台だった。

福島県浜通り地方の中央部に位置する双葉町は福島第一原発の地元である。人々は地震、津波に加え、原発の事故により帰郷の目処が立たない、きわめて辛い環境に置かれている。

校舎跡5階の視聴覚室。120人を超える観客を前に、サブリーダーの大森梨江さんが満面の笑顔で挨拶を述べた。演じたのは「ウクレマイレ」「フラガール 虹を」など5曲。完璧な笑顔と完璧な踊りで7人のチームは会場を魅了した。早川さんの危惧は、杞憂だったのだ。

やがて拍手を浴びながら7人は舞台を降りた。観客一人ひとりにレイをかけ、おみやげを配る。そのうち、大森さんの顔がくしゃくしゃになった。

大森さんは双葉町の出身者。客席には友人知人も大勢つめかけていた。手を取り合いながら、「お互いに頑張ろうね」とささやき交わす声が漏れてくる。

「従業員は全員無事でした。しかし、親戚や友人が津波にさらわれたというようなケースはたくさんあります。現に私の伯父も逃げ遅れまして……」

温厚な広報のI氏が声をつまらせた。癒やしの旅はいまも続いている。

(ミヤジシンゴ=撮影)