政府に従う大学とすぐには従わない大学で明暗
報告書は東大に対してこう指摘する。
〈既存組織の変革に向けたスケール感やスピード感については必ずしも十分ではなく、工程の具体化と学内調整の加速・具体化が求められる〉
〈「成長可能な経営メカニズム」の具体化に向けては、長期的・世界的規模のビジョンと戦略を構築する「法人総合戦略会議」の設置(などが求められる=筆者注)〉
京大には
〈新たな体制の責任と権限の所在の明確化が必要〉
〈実社会の変化への対応の必要が感じられた〉
東大、京大は、経営改革や組織改革などのスピードの遅さや、全学としての取り組みが不足していることが問題視されている。
一方、東北大については、
と、評価した。
文科省やアドバイザリーボードは、ガバナンス(組織統治)の強化、従来の慣習の廃止や見直しなど、徹底的な改革を大学に求めている。その大学像に向かって進む大学と、すぐには進めようとしない大学との差が今回の結果につながったと思われる。
ただ、報告書は、東大や京大に対して、含みを持たせた。
東大には
京大についても
文科省など政府が望むように経営などのガバナンス強化をきちんと行えば認めるということだろう。
「災害からの復興」というメッセージ
東北大が選ばれたもうひとつの理由はストーリー性だ。最近、メディアなどで東北大がよく取り上げられるようになった。
東日本大震災以後、政府は東北地方を科学技術や研究成果を生かすイノベーションの拠点にしようとしている。
文科省は東北大の「東北メディカル・メガバンク機構」「災害科学国際研究所」や、東北大が中心になって進めている「ナノテラス(次世代放射光施設)」といった最先端研究施設新設を次々と支援している。
東北大学が第1号になるというのは、そうした一連のイノベーション拠点政策の集大成であり、「災害からの復興」というメッセージ効果が大きい。こうした点も評価されたのではないか。
大学ファンドに対しては、大学の研究者からかなり批判が集まっている。多くの大学や研究者が予算不足に悩んでいる。日本の研究力を高めたいのなら、数校に絞らずに幅広く支援すべきではないかというのだ。そうした意見が根強い背景には、開始前にどういう制度にするかを十分検討することや、議論が不足していることがある。
政府が制度を作る際にお手本にしたのは、米国のハーバード大など、欧米のトップ大学だ。
経営トップのガバナンスによる経営が行われ、大学独自の莫大なファンドの運用益を研究費などに使っている。政府はそこに着目し、日本の大学にもそうしたやり方を持ち込もうとしている。