「Xは、店舗に行く必要のない宅配クリーニングの業態で、ネットを中心に急激に人気が出た。設備や人手の準備ができていないのに、全国から大量の商品が集まった結果、衣類を適切な環境で保管できなかったのでしょう。下請け業者のなかには、『十分な金額をもらえないなら、それなりの仕事しかしない』と考える業者がいてもおかしくない。悪い口コミが命取りになるこの業界で、品質が安定しないのは、大きなリスクになると思います」
一方、サトウさんは、「Xに限らず、商品の保管環境に問題がある企業はほかにもあるのでは」と疑っている。「きちんとした保管庫を年中稼働させるのは、光熱費などかなりのコストがかかりますから。以前業界紙で、防虫剤や脱酸素剤を入れた袋に衣類を詰めて保管している企業の事例を見たことがあります」
クリーニング業界の健全化を目指す「NPO法人クリーニング・カスタマーズサポート」の鈴木和幸理事長は、「業者が意図的に洗たくを先送りしている側面もある」と話す。
「クリーニング業界は、繁忙期と閑散期の差が激しいんです。大量の冬服が出される春先と、夏や秋の閑散期では、入荷量が4~5倍ちがうこともザラ。なので、保管クリーニング商品の洗たくを閑散期に散らせば、工場の稼働率を一定にキープできるメリットがあります。さらに保管料までとれるのだから、業者によっては、相当“おいしい”商品なのです」
それでは、クリーニング業法をもとに、業者の衛生管理指針などを定める厚生労働省は、この実態をどう受け止めるのか。生活衛生課の担当者に、前出のヤマダさん、タナカさん、サトウさんの証言を伝え、見解を求めると、こう返ってきた。
「各事案の詳細を把握していないので、衛生上問題があるか判断することは難しい。ただしクリーニング業法は、洗たく物の処理方法について顧客への説明義務を定めているので、『いつ洗うのか』をふくめ、顧客の合意を取ることは最低限必要だと考えます」
利用者の大半は、「すぐに洗たくされて清潔な倉庫で保管されている」と思っているはずだ。大切な洋服をカビだらけにされる実態があるとしたら、消費者への“裏切り”にほかならない。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)