肩で風を切る、華やかなイメージとはまるで違う
インベストメントバンカーというと、年収5000万円や1億円はざらで、肩で風を切って仕事をし、ゴールドマン・サックスの社員が女優の石原さとみさんと結婚するなど、華やかなイメージがある。しかし、それは特定の一面で、実際は仕事の成果と効率を上げるため、さまざまな工夫をこらしている。
筆者自身も、ロンドンで国際協調融資や航空機ファイナンスといったインベストメントバンキングに携わった経験があり、今回は一般ビジネスパーソンにも役立つ彼らの習慣を紹介する。
筆者が1988年に邦銀のバンカーとしてロンドンに赴任し、最初に痛感させられたのが、欧米のホワイトカラーの効率的な働き方である。
目から鱗だったのが、外部とのミーティングをやるとき、そのミーティングで自分たちは何を達成(achieve)したいかを明確にし、どういう会話で話し合いが進むか予想し、相手がこう出てきたらこう話を持っていくというシナリオを全員が共有して臨むことだ。これは正式なプレゼンテーションはもとより、どんな些細なミーティングでも行われていた。
日本の「アポなしぐだぐだスタイル」は通用しない
当時、邦銀では(今もかなりそうだと思うが)客のところにアポなしで行って、「こんちはー、いかがっすかー?」と世間話を始め、その中から何となくニーズを拾うという「ぐだぐだスタイル」だった。しかし、ロンドンに赴任し、欧米式でやると、ミーティングが短時間で終わり、成果も上がるので、発想を全面的に改めた。
今では友人と会食するときでも、こんな話をしようとか、こういうことを訊こうといったメモを必ず1枚ポケットに入れていく。そうしないとせっかくの会食が無駄になる。
出版社との打ち合わせでも、話すべきことや質問のメモを手元に置いて、一つずつ消し込みながら進めるので、いつも20分くらいで終わる。
インベストメントバンカーは「ディール・メーカー」で、M&Aやファイナンスをダイナミックに取り仕切るというイメージがある。確かにそれも一面だが、できる人たちは事務を非常に大事にしている。事務がしっかりしていなければ、トラブル処理に時間をとられたり、顧客との信頼関係を損なったりするので、「すべてはまず事務から」というのが、万国共通のアプローチである。
国際協調融資の取引先(借入人)にパムック銀行(Pamuk Bank)というトルコの銀行があったが、そこの国際部にレフィーク・センチュルクという筆者と同年配(当時30代前半)の男性がいた。