覇権国の交代は大きな戦争を通じて行なわれてきた

【白井】いま喧伝されている台湾有事はどのぐらい大きなものになり得るか。可能性としては、端的に言って、核戦争、日本が水爆を落とされるところまであると思います。それはなぜか。

台湾有事はアメリカと中国の覇権闘争、ちょっとした利害の小競り合いではない、ヘゲモニーを争う大決戦として戦われる可能性がある。20世紀には二つの世界大戦を通じて、覇権国はイギリスからアメリカに移りました。世界史上、覇権国の交代は大きな戦争を通じて行なわれてきた場合が多いわけです。それは、部分的な利害対立ではないから、落としどころを見つけがたいためかもしれません。ゆえに、アメリカから中国にヘゲモニーが移るとすれば、大きな戦乱なしにそれが生じうるとは考えにくいのです。

アメリカと中国の旗
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そのとき問題になるのは、いわゆる核抑止力が働くかどうか。核抑止とは、自分が核兵器を使ったら相手もこっちへ必ず使ってくるので、それは耐えがたい苦痛をもたらすからやめておこうというものです。日本は核兵器を持っていないわけですから、この核抑止を担うのがアメリカによる核の傘だとされているわけです。

日本政府は核攻撃される可能性を視野に入れている

【白井】では、中国が日本に核攻撃をしたとして、アメリカがその報復として中国に核攻撃をするのか。アメリカは、それをやったら次は中国がアメリカ本土に核兵器を飛ばすだろうと考える。つまり、日本への核攻撃だけなら、アメリカは中国に対して核攻撃をできません。これは逆に言えば、日本に対しては中国がいわば安心して核兵器を使うことができるというわけで、核抑止が働かない構図になるわけです。

この話は別に空想的でも何でもない。日本政府自身がその可能性を認めて、今、米軍基地や自衛隊基地に対する大量破壊兵器、つまり核兵器だけではなく化学兵器や生物兵器による攻撃に対する防衛策をいろいろと進めつつあります。新しい安保関連3文書を出したからには、日本政府は核攻撃されるかもしれない可能性を視野に入れています。

これが今日の政治状況です。だから戦前というよりも限りなく戦中に近づきつつあります。しかも、確たる国家意思によってこうした状況を招いたわけではなく、思考停止の対米従属でこうなっているわけです。それをこの社会はどう認識しているのか。ほとんど無批判に大軍拡が進んでいる。まさに生ける屍、既に死んでいるというのが2023年の日本の光景です。