政策転換にまるで反応しない日本人

【内田】戦後日本の安全保障戦略の大転換があって、軍事費も突出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)まで言い出した。明らかに「戦争ができる」方向にシフトした。にもかかわらずメディアは反応しないし、国民もなにごともないようにぼんやり暮らしている。どうしてこうも無関心でいられるのか。政策転換そのものよりも、政策転換にまるで反応しない日本人の方がむしろ深刻な問題だと思います。

仕事から出る途中のビジネスマンの群衆
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです

この無反応は「自分たちは日本の主権者ではない」という無力感の現れだと僕は思います。自分たちが代表として選んだ議員たちが国会で徹底的に議論して、その上で決定した政策転換であれば、有権者たちはその政策決定にある程度の責任を感じるはずです。このような政策が採択されたことに「主権者として責任がある」と感じたら、それなりの反応をする。

けれども、白井さんが言うとおり、これは全部アメリカが決めたシナリオです。岸田首相だって記者から「どうして戦後70年以上続いた安全保障政策をいきなり転換するのか」と訊かれても答えられない。「だって、アメリカが『そうしろ』って言ったから」だとはさすがに言えない。だから、政策転換には必然性があったと、いくら彼がぼそぼそ答弁しても、それは全部「空語」であるし、空語であることを本人も国民もみんな知っている。これは日本が、自分たちの国益を最大化するために発議した政策転換じゃないということはみんな知っている。アメリカに言われたからしている。トマホークやF-35を買うのもアメリカの指示に従ってのことだし、軍事費をGDP(国内総生産)の2%にするのもNATO(北大西洋条約機構)と同じ数字に合わせろとバイデン大統領に言われたので、それに従っている。

「ホワイトハウスの意向に迎合する政権が安定政権」という刷り込み

【内田】アメリカに鼻面を引きずり回されて国家戦略の方向転換を強いられているのに、これほどメディアも国民も無反応なのは、何よりも「ホワイトハウスの意向に迎合する政権が安定政権だ」ということを刷り込まれているからです。アメリカの言うことを聞いてさえいれば、自民党の長期政権は保証される。自国の国益よりもアメリカの国益を優先的に配慮する政権なのですから、アメリカとしては未来永劫自民党政権が続いて欲しいと願っている。アメリカの外交問題評議会が発行している「Foreign Affairs」を読んでいると、その思考回路はよくわかります。アメリカの保守論壇では安倍、菅(義偉)、岸田政権は非常に高い評価を得ています。安倍首相は一時期、米紙「ニューヨーク・タイムズ」からその過剰なナショナリズムがアジアの地政学的安定を乱すと手厳しく批判されましたが、総合点では、アメリカからは一貫して高い評価を得ていました。