社債の発行が高水準で推移している。普通社債の発行額を見ると昨年度は約9兆6000億円に達した(グラフ参照)。そのうち個人投資家向けの社債は2兆円を超え、一昨年度の4000億円規模を大きく上回ったものと見られる。

高水準の発行額が続く普通社債

高水準の発行額が続く普通社債

これまで社債は機関投資家向けに発行されるケースが中心だったが、金融危機によって機関投資家の投資余力が低下。その一方で企業も運転資金の必要性に迫られていることから、個人投資家に向けた発行が増えているようだ。

社債は企業が発行する債券のこと。基本的には償還までの期間と利率が定められ、投資家には定期的に利払いがされ、満期になると額面の金額が償還される。

たとえば三菱東京UFJ銀行が今年3月に発行した社債は、期間8年で、額面に対する利率が2.75%。0.5%に満たない大手銀行の定期預金5年物と比べても、魅力ある水準だ。社債には、発行体である企業の財務状況悪化によって利払いが滞ったり、償還が行われないという信用リスクが伴うものの、信用力の高い企業の債券であれば、関心を持つ個人投資家も多い。

そして、企業にもメリットがある。まず、金融機関から融資を受ける場合より資金調達がしやすい。融資の場合は銀行と企業、一対一の関係となり、条件の設定も厳しくなる。それが社債であれば引き受け手は複数となり、比較的柔軟な条件設定もできて資金調達がしやすい。

借り入れだと年3~4%程度の金利負担が生じるが、社債であれば期間によっては1%台など、低利での資金調達が可能となる。さらに、借り入れでは定期的に元本の返済と利子の支払いが必要になるが、債券なら償還までは利払いだけで済み、元本の返済(償還)は期限まで繰り延べられる。発行企業にとって償還期限は長いほどいいので、これも債券による資金調達の大きなメリットとなる。

また、社債には額面と発行価額の関係で3つの発行方法があり、企業は状況に合わせて発行の仕方を選択できる。おもに活用されるのは「平価発行」「割引発行」「打うち歩ぶ発行」の3種類。平価発行とは、額面と同じ額で発行することで、額面が100円なら、投資家は発行時に100円で購入できる。

割引発行では、額面100円の債券を95円などに割り引いた額で発行する。投資家は割り引かれた分、安く買うことができ、償還時に差額分の利益が得られるわけだ。ただし、その場合、利率が一般的な金融商品よりも低かったり、利払いがなかったりする。企業は償還時に割引額を上乗せして償還することで、利払いを負わずに済む。

最後の打歩発行は額面よりも高い価額で発行することである。市場金利より社債の利率が高かったり、転換社債型新株予約権付社債のようにプレミアムが付いている場合などに利用される。発行企業の株価が一定価格を上回れば債券を株式に転換することができる転換社債型新株予約権付社債もこの一種で、発行した債券が株式に転換されると、償還も不要になる。

社債を発行すると、バランスシート上は負債として記載することになる。負債には、支払手形、短期借入金など1年以内に返済する必要のある「流動負債」と、長期借入金、退職給与引当金など返済までに1年超の期間がある「固定負債」があるが、社債は後者に当たる。

同じ負債であっても、流動負債より固定負債の比率が高くなったほうが、財務上の評価は高まる。なぜなら計画的な資金調達を行っており、日々の資金繰りも楽と見られるからである。実はこんな隠れたメリットも社債は兼ねそなえているのだ。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)