ジャニー社長の死後も、姪の現社長は適切な対応をせず…
「(ジャニー前社長の死で)性加害疑惑に対する事実調査や原因究明、再発防止、被害者救済といった対応をとるに当たって、支障となる事情はなくなった。そのため、ジュリー氏は、経営者として、また、唯一の株主として、先代の負の遺産を清算するべく、これらの対応を行おうと思えば、いつでも行うことができたはずである。しかるに、2022年のBBCの取材に対する対応からも明らかなように、ジュリー氏は、そのような適切な対応をとることはなかった。性加害の点についても、ジュリー氏がそれを認めない以上、『なかったこと』にするという意識が役職員の間で改められることはなく継続していたと考えられる」
報告書は、2023年5月の段階では性加害を「知りませんでした」と言ったジュリー現社長が、実際は週刊文春などの報道を認識していた事実を明らかにしている。虚偽のコメントをしたのは、保身だけではなく、同族経営による「うちの会社をなんとか守りたい」という情緒的コミットメントによるものであろうし、そのデメリットである「冷静な経営判断ができない」がゆえに対応を誤った典型例ともいえるだろう。
同族経営企業はガバナンスが弱くなりがち
中川さんは「やはり同族経営の最大のデメリットは、ガバナンス(公正な経営判断のための監視)が弱くなること。そして、マネジメント能力があるかないかに関わらず、トップが血縁で選ばれてしまうという弊害もあります」と解説する。
報告書ではそんなジャニーズ事務所の「ガバナンスの脆弱性」「(経営陣の)怠慢と隠蔽体質」が詳細に記述されている。故人であるメリー氏はもちろん「ジュリー氏及び白波瀬傑氏をはじめとする取締役」が性加害に気づいていたにも関わらず、「ジャニー氏に対する監視・監督義務を全く果たさなかったことが、性加害の継続を許す大きな要因になったと考えられる」ので、「その任務懈怠により、ジャニーズ事務所に対する損害賠償責任(旧商法266条1項5号、会社法423条1項)及び被害者に対する損害賠償責任(旧商法266条ノ3第1項、会社法429条1項)を負うと考えられる」と明言。
そして、「再発防止策」としては、被害者の救済、人権意識を高める研修とともに、「ジュリー氏の代表取締役社長辞任」を挙げている。