カンボジアで総選挙が行われ、与党が圧勝。フン・セン首相は辞任を表明し、息子のフン・マネット氏(写真)に首相の座を譲ることになった。今回も野党を徹底的に弾圧して実施された不公正な選挙であり、北朝鮮さながらの権力世襲化が行われた。ではカンボジア国民が独裁者による圧政で貧困にあえいでいるのかというと、そうではない。
長く続いた内戦の影響で、東南アジアのなかでは貧しい部類に入るものの、同国の成長率は極めて高く、過去20年間の平均GDP成長率(実質)は6.7%もある。特に近年はIT化が進み、国内経済は目覚ましい発展ぶりだ。
フン・セン氏は、内政面では独裁的な統治を行う一方、ビジネスに親和的で経済は活発である。欧米各国からは独裁政権と批判されているものの、中国の力を借りることで、制裁の影響を回避している。
一方で、内戦後の国連統治の名残であるドル経済をあえて継続し、中国にも完全支配されないよう絶妙なバランスを保っている。
非民主的な政治と豊かさを両立させる国が増加
カンボジアに限らず、シンガポールやタイ、ベトナムなど、東南アジアの多くの国が非民主的な政治体制と豊かさを両立している。シンガポールは表面的には民主国家だが、現首相のリー・シェンロン氏は、建国の父であるリー・クアンユー氏の息子であり、カンボジアや北朝鮮と同様、権力が世襲されている。
シンガポールは国民に対する監視が厳しいことでも知られているが、1人当たりのGDPは日本の2.5倍もあり圧倒的に豊かである。子育て環境は日本とは比較にならないレベルで、多くの日本人がよりよい教育環境を求めてシンガポールに移住している。
タイも軍事政権が続いており、しばしば民主派に対する弾圧が行われているが、対外的にはオープンな政策を採用しており、シンガポールと同様、多くの欧米人を引き寄せている。政治体制について特段の関心を持たない一般的なビジネスパーソンにとって、両国はワークライフバランスを追求できる理想的な国となっているのが現実だ。
英誌エコノミストが発表している各国の民主主義指数と、人口やGDPなどの統計データを組み合わせて分析すると極めて不都合な真実が浮かび上がる。