前回とはまったく違う「SNSデモ」の目的とは

政府もそれを黙認し、若者のガス抜きに利用しただけに、当時「官製デモだ」と言われた。だが、今回はそうしたリアルな暴行やデモではなく、SNSというネット空間で起きている。

彼らがネット上で日本批判の動画を大量に投稿する理由は何なのか。それは11年前の構図と同様、「自らの中国での境遇に不満を持ち、強いストレスを感じており、反日デモをストレス発散のはけ口としている」こともある。彼らは日本についての知識などなく、日本や日本人が憎いわけでもなく、原発処理水問題を詳しく理解しているわけでもない。そうした点は当時、尖閣諸島が地図上のどこにあるのかさえも知らない無知な若者と共通している。

今回、大きく異なるのは、彼らの対日批判の目的が「お金」であることだ。彼らは迷惑電話をかける動画をSNSに投稿し、そこで広告収入を得て、自分の利益を増やしたいと考えている。SNSで人気が出て閲覧数が増えれば、すぐに収入に結びつく。そのため、こうした行動に出ているのだ。

また、SNSのフォロワーを増やして自己アピールをしたい、もっと目立ちたいといった自己顕示欲も背景にあるだろう。もしリアルなデモを行えば自分の身元が特定され、いくら中国でも自分が危険な目に遭ったり、批判の対象となったりする可能性があるが、SNS上の行為なら、危険を回避できるという側面もある。

褒めるネタよりも誹謗中傷が人気

中国ではインフルエンサー、KOL(キー・オピニオン・リーダー)で生計を立てたり、副業にしたりしている人が非常に多く、常にウケる「ネタ」を探しているが、日本は格好のネタだ。

私は2021年、日本在住の中国人インフルエンサーに取材したことがあるが、その際、その人は「日本への関心は非常に高いので、日本関連のネタは常に人気ですが、ほのぼのとした話題や、日本を褒めるネタは、日本批判や日本を誹謗ひぼう中傷するネタに比べれば、人気がありません。やはり、誹謗中傷を喜ぶ層というのが一定程度、いるわけです。そこを狙って、例えば、『日本人は昔と比べて、こんなに貧乏になった』など実例を挙げて、中国人にウケそうな投稿を繰り返す人が多いのです」と語っていた。

私も最近SNSで見かけたことがあるが、在日中国人インフルエンサーが、日本の警察官をわざと怒らせるような暴言を吐き、熱くなった警察官がその人に注意すると、その様子をすかさず撮影し「日本の警察官のレベルは低い」「警察官なのに私にこんなひどいことをした」などとコメントつきで動画を投稿するものだ。これは「やらせ」だが、それを信じてしまう中国人も多い。

このような投稿は主に在日中国人のインフルエンサーの間で行われているが、中国国内でも、ここ2~3年、SNS上での対日批判は増えている。