6位になってようやくB90/Gr出身のアンナレーナ・ベアボック外相が、7位にハーベック副首相兼経済・気候相がランクインする。両名ともB90/Grを代表する政治家であり、外相と副首相兼経済・気候相という政権の要職を担っている。その両名に対して有権者の支持が集まっていないところに、有権者のB90/Gr離れが端的に表れている。

広く知られているように、有権者の不満を吸収しているのは、中道右派の最大野党であるUnionではなく、極右政党として知られるドイツのための選択肢(AfD)である。AfDはすでに、SPDを抜いて支持率で2位となっている。ドイツで最も過激と忌み嫌われたAfDの台頭を、B90/Grが促してしまったきらいは否めないというところだ。

急激な脱炭素政策に、有権者は不満を募らせている

環境政党あるいはラジカルな環境・エネルギー政策に対して有権者の不満が募っていることは、7月に行われたスペイン総選挙でも明らかとなった。ペドロ・サンチェス首相を擁する中道左派の与党・社会労働党(PSOE)は1議席を増やしたが、最大野党である中道右派の国民党(PP)が48議席を積み増し、第1党に返り咲いたのだ。

当初は、ラジカルな環境・エネルギー政策を批判する極右政党ヴォックス(VOX)の台頭が予想されたが、同党は結局19議席を失う大敗となった。直前に有権者が、VOXよりも現実的なPPに期待を寄せたことが、VOXの大敗につながったようだ。またPSOEと協力関係にある極左政党スマル(Sumar)も、改選前から7議席を減らし敗北した。

英国でも、首都ロンドン西部で行われた下院補選で、劣勢が伝えられていた与党の中道右派・保守党の候補が勝利を収めた。保守党の候補が、中道左派のロンドン市長が進める環境対策に対する反対票の受け皿となったわけだ。このように、環境政党あるいはラジカルな環境・エネルギー政策に対する有権者の不満は、各地で確実に高まっている。

日没時のブランデンブルク門の前に立つ女性
写真=iStock.com/Xsandra
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「ヨーロッパの優等生」から「ヨーロッパの病人」へ

こうした実情に鑑みれば、ドイツ政治もまた、環境・エネルギー政策を現実的な方向に修正せざるを得ないはずだ。責任政党としての経験が豊かなSPDの場合、まだそうした期待が持てる。しかし責任政党としての経験に乏しいB90/Grの場合、これまでの経緯を踏まえると、現実的な方向に軌道を修正する展望が描きにくいといえよう。

政治の混沌は経済の停滞と裏腹の関係である。ドイツの次回の総選挙は2025年10月以前と、まだ2年近い歳月がある。この間も、B90/Grがショルツ政権の運営の足を引っ張る事態が続けば、ドイツ経済の停滞もさらに促される。ドイツは再び「ヨーロッパの病人(the sick man of Europe)」への道を着実に歩んでいるように見受けられる。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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