※本稿は、仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。
深夜2時に訪れた“コワオモテ”のお客
店に行くと、レジの内側に黒い小ぶりのアタッシュケースが1つ置かれてあった。
「これ、何?」
「昨夜のお客さまのお忘れ物です」
「えーっ、こんな大きな物、忘れていかれたの?」
連絡先がわかるものがないかと中を開いてみた。
「??? これはちょっとヤバイかも……」
なかには名刺や住所録らしい書類が詰まっていて、名刺には誰もがその名を知る暴力団の名とマークが印刷されている。とりあえず、仲良しの「駐在さん」である姫野さんに電話するが、出ない。様子をみるしかないと事務所に保管したはいいが、その日も、翌日、翌々日も連絡がない。3日後、ようやく連絡のついた姫野さんの指示で、最寄りの警察署に届けた。
これで一安心と思ったその晩のことだった。深夜2時、バイトの加納君からの電話で叩き起こされた。
「アタッシュケースを取りに来た男性が怒っているのですが……」
加納君は電話口でオロオロと脅えている。
「警察に届けたと伝えたら、『俺はヤクザだ(*1)。すぐ取り返してこい』とおっしゃって……」
夫を起こすと、「う〜ん」と腕組みをして考え込んでいる。どうしようかと思ったが、このまま加納君たちを放置しておくわけにはいかない。上着だけ羽織って、慌てて店へ向かった。店では夜勤の男の子2人が、レジの中で顔面蒼白の状態で立ち尽くし、向かい合うように180センチを超える長身ででっぷりと太った男が立っている。
(*1)俺はヤクザだ このエピソードはもう十数年前のこと。暴力団対策法の規制が強化されたこともあってか、ここ10年ほどは「ヤクザ」を名乗ってのトラブルなどは起きていない。以前は某組の事務所が近くにあり、注文されたワインをなかなか取りに来ないので確認してみると、注文した本人が逮捕されていたことも。