爆買いしなくても中国で手に入る
一度は団体に参加しても、「二度目以降は絶対に自分たちだけで旅行しよう」という気持ちを持っている人が、2015年の爆買いブームの頃から多かった。その証拠に、ブームの時には団体旅行が全体の7割、個人が3割という割合だったが、それからわずか4年後の2019年には、冒頭で紹介したように、団体と個人の割合は逆転している。
また、団体旅行の主目的として、以前は「買い物」を挙げる人が多かったが、爆買いブーム以降、中国の通販サイトで日本の日用品などを購入できるようになり、わざわざ日本に行って、ドラッグストアで買い物をしなくても済むようになったことも、団体を避ける要因のひとつといえる。
ブームの時には「日本で買うべき12の神薬」といったリストがSNSで出回り、そのリストに沿って、自分のお土産だけでなく、家族、親戚、会社の同僚などに頼まれた買い物をするという時代があった。わずか8年前の話だが、当時、誰もが日本旅行に行けるわけではなかったので、日本に行く人に「あれも買ってきて、これも買ってきて」と頼む人があまりにも多かったのだ。
団体旅行ビザの人たちの旅行需要が激減
しかし、もはや、そんなことをする人は誰もいない。日本に旅行に行く目的は多様化しており、爆買いブーム直後から言われていたように、モノ消費から体験型のコト消費へと移行しているが、団体旅行では、それ(コト消費)がしにくいという理由もある。
また、中国国内経済の悪化も団体旅行の復活に大きな影を落としている。8月17日、かねて経営危機に陥っていた中国恒大集団が米国で破産を申請。不動産不況が深刻化していることがより鮮明になった。
訪日旅行客の約半数が20~30代という比較的若い年齢層だが、政府が若年失業率の統計発表を取りやめたことなどからも推測されるように、若者の就職難はますます厳しさを増している。こうした状況から、中国では内向き志向が強まっている。
日本政府観光局が今月発表した7月の訪日外国人数(推計値)でも、韓国や米国などからはコロナ禍前の2019年7月を上回る人が来日したが、中国人は約31万人と2019年7月(約105万人)と比較して7割も減少した。これは団体客が解禁される前なので、ほぼ個人旅行客だが、それでもこれほどの落ち込みようだ。
前述の通り、そもそも、団体旅行ビザを取得できる人と、個人旅行ビザを取得できる人では所得に大きな格差がある。団体旅行に参加する人々は個人旅行をする人々と比較すれば、もともと経済的な余裕はそれほどない。