マインドセットの重要性

基本的な個人的資質が変更可能かどうかについての信念は、人生のほぼすべての場面に影響します。

例えば、どんなに努力しても自分の不安や抑うつのレベルを変えることはできないと信じている人は、そうでない人に比べて不安や抑うつの症状が強いことがわかっています。こうした信念をもつ人は、心配や悲しみのレベルが高く、手汗やパニック発作といった不安に関する身体的症状を報告します。

同様に、老化に対する考え方も、認知能力や身体的な健康に影響を及ぼします。ある研究によると、61歳から87歳の研究参加者のうち、老化のプロセスは固定的で避けられないものだ、と考えていた人は、老化についてのネガティブなステレオタイプを想起した後に、記憶力テストの成績が低下し、血圧も高くなったことが報告されています。

一方、老化のプロセスは変えることができる、と考えていた人は、このような反応が示されませんでした。老化のプロセスを変えることができる、と考えていた人は、そのようなステレオタイプが必然的なものだとは信じていないことから、ネガティブな結果に悩まされることはないのです。

シニアカップル
写真=iStock.com/Paul Bradbury
※写真はイメージです

私たちのマインドセットは他者との関わり方にも基本的な部分で影響を及ぼします。共感性には柔軟性があるのか、すなわち、他人の立場にたつ能力は努力次第で高めることができるのかどうか、についての信念の影響を調べた研究があります。

研究参加者は、人間の共感性はその人にとって基本的なもので変化することはないと思うか、それとも、人間の共感性は変えることができると思うか、を答えました。そして、個人的に重要な社会的、あるいは政治的な問題について意見が異なる人に共感しようとするときの意欲が測定されました。

研究者の予想通り、共感性には柔軟性がある、という信念をもつ人ほど、相手の立場を尊重し、理解しようとする意欲が高いことが示されました。このように努力しようとする傾向は、より良い人間関係の構築や対人葛藤の減少につながる可能性が高い、と思われます。

マインドセットが親密な人間関係の問題を解決する意欲に影響する、ということは驚くことではないかもしれません。運命の人がいるというマインドセットをもつ人は、良い人間関係を築くためには正しい相手を選ぶことが大切だ、と信じています。そういう人は人間関係を一か八かで捉えています。

残念ながら、この信念は2種類の機能不全行動を引き起こします。それは、問題を無視すること(何らかの問題があればそれは人間関係が悪いことを意味するからです)、あるいはあきらめること、です。恋愛関係にある大学生カップルを対象にした研究によると、このようなソウルメイト型マインドセットの人は、人間関係でストレスがかかる出来事に直面すると、物事を解決しようとする時間を減らしてしまうこと、基本的に努力することをやめてしまい、あきらめる傾向があったことを報告しています。