ほめ言葉「頭がいい」が有害である理由
たくさんの親や教師は、悪気なしに、子どもの学業成績をほめるときに「頭がいい」というレッテルを貼ることがあります。この言葉は、一見するとほめ言葉です。確かに自分の知的能力について、このように言われたい、と思うかもしれません。しかし、現在では、このレッテルが子どもたちの学習環境における楽しさ、持続性、達成感にとって有害であることを示す多くの証拠が示されています。
「頭がいい」と言われることの欠点は何でしょうか? このレッテルは、子どもたちに、知能は固定化された特徴であること、つまり、頭がいいのは生まれつきで、そしていつまでも賢い、ということを信じ込ませてしまいます。
「頭がいい」と言われた子どもは、しばしば知能の性質について固定型マインドセットをもつようになり、このレッテルを否定される可能性について深く悩むようになります。
将来、この子どもがあるテストで悪い成績を出した、としましょう。そうすると、子どもは「ダメな点数をとっちゃったから、やっぱり自分はそんなに賢くないのかもしれない」と考えます。したがって、このたった一度のネガティブな結果は、子どもにとって、衝撃的なものになるのです。
子どもたちは、期待に応えられないかもしれない、という不安に対処するために、パフォーマンスを低下させることで対応する場合があります。すなわち、自分が確実に解くことができる問題だけに挑戦するようになるのです。
その結果、そのように対応した子どもは自分自身が挑戦し、成長するための機会を失ってしまいます。タフツ大学人文科学部長のロバート・スタンバーグは「失敗を恐れていると、仕事で学ぶことができなくなり、『失敗しないようにしなければ』という防御的なアプローチをとるようになってしまいます」と指摘しています。
一方、自分の能力や特性は努力と実践によって変えられる、と考える成長型マインドセットをもつ人は、大きなメリットを得ることができます。その人にとっては、間違いは学び、成長するためのチャンス、として捉えられるので、その力を伸ばすためにチャレンジングな課題に取り組むようになります。
例えば、「知的能力は成長する」という信念をもつ中学1年生は、学校の勉強が難しくなり、成績基準が厳しくなる中学1〜2年の間でも成績が上昇しますが、そのような信念をもたない生徒にはそのような上昇が示されなかった、という研究があります。
同様に、成長型マインドセットのアスリートは、才能だけでは不十分であること、真剣な努力と厳しいトレーニングが成功への鍵であることを理解し、より高いレベルの成果を上げています。ある研究では、精神的な問題を抱えていたティーンエイジャーに、成長型マインドセットと、時間をかけて変化し改善する能力について、30分間のレッスンを行ったところ、9カ月後には不安や抑うつのレベルが下がったという結果も得られています。
このように、変化する力とその可能性に焦点を当てたマインドセットを取り入れると、大きなメリットが得られます。