『ツルモク独身寮』の主人公は高卒のライン工
団塊ジュニアは、バブルの波には乗り遅れた世代ではあるが、高校卒業の時点で就職を選んでいれば、ぎりぎりその波に間に合っていた。
『ビッグコミックスピリッツ』で1988年から連載が始まった窪之内英策の『ツルモク独身寮』は、当時の人気漫画作品のひとつ。四国の田舎の高校を卒業した主人公の宮川正太は、東京のツルモク家具に就職する。
バブル期のトレンディーラブコメとして人気のあった作品だが、舞台は家具工場の独身寮で、主人公は高卒のライン工だった。まるで時代の先端の職業を描こうとしてはいなかったのだ。東京といっても都心からは距離のある郊外にある工場である。周囲には遊びのための施設もない。彼らは、休みの日に都心まで遊びに行く。先輩は東京に出かける用に肩パッドの入ったソフトスーツを持っている。彼らの生活の中にも、少しだけバブルの影響があった。
正太の初任給は、手取りで12万円。当時の高卒初任給の平均に近い数字だ。高卒初任給が15万円台を上回るのは、バブル後のさらにあとの90年代になってからだった。女性となるとさらに10年ほど遅い。
『冬物語』は、ラブコメを兼ねた受験のハウツー漫画
同じ時期に『ヤングサンデー』では、予備校での浪人の生活を題材にしたラブコメが連載されていた。原秀則の『冬物語』である。連載期間は1987~90年。こちらは、高校を卒業したが、大学の受験に失敗し、浪人生活を送る森川光が主人公である。
光は、受験した大学のすべてに不合格となった。大学への進学を軽く考えていた光は、現実を突きつけられる。予備校の願書の申し込みに出かけるのだが、ここで、2人の気になる女の子に出会う。
東大受験コースに申し込みに来ていた優等生タイプのしおりと、私大文系コースですでに2浪目に突入していた朗らかな奈緒子である。光は、身の丈に合った日東駒専合格コースを申し込むつもりで予備校に来たのだが、見栄を張り東大受験コースへの申し込みを行い、のちに後悔する。
光は、受験する大学のレベルに分かれてコースが細かく設定されていることもろくに知らなかった。また「日東駒専」がすべり止めの定番だったのは過去の話で、今や中堅校になっているなど、受験のリアルな知識が示される。予備校生活を気楽に捉えた作品かというと、むしろシビアなものに描きすぎて、人気が出なかったのだろう。これ以前も、ラブコメに浪人生は描かれた(『めぞん一刻』高橋留美子、『みゆき』あだち充)ことがあったが、ここまで実践的な話ではなかった。『冬物語』は、ラブコメを兼ねた受験のハウツー漫画だった。