豚の生殖器はネジとネジ穴の構造で受精の確率を高める
この粘膜のヒダは、子宮口から縦方向、螺旋方向、そして最後には平坦な横方向のヒダとなっている。さらに、子宮頸管自体は発情期には緊縮し、休止期になると弛緩するという。子宮側でも、陰茎が挿入しやすいよう準備をしていることになる。
このように複雑な膣の形状に合った陰茎を挿入できれば、オスにとっては交尾を成功させる確率を高めることができる。
ネジとネジ穴の構造と同じ原理である。
じつは、ブタというと、獣医業界では、豚丹毒(人畜共通感染症の一つで細菌による豚の重篤な感染症)や豚コレラ(家畜伝染病の一つで、ウイルスによるブタの感染症)といった具合に、もっぱら病気に関する話題が多くなりがちである。
そんなブタの生殖器に、こんなに驚くべきしくみや工夫が隠されているとは……。産業動物でこのタイプの陰茎と膣をもつのはブタだけである。メスに寄り添った優しい戦略である。
パンと手を叩く間の一瞬で終わるヤギの交尾を見逃すな
陸上の哺乳類の中にも、クジラと同じ「弾性線維型」の陰茎をもつ動物はたくさんいる。ヤギもその一種である。
ヤギは、ウシ科ヤギ属の動物で、クジラと同じ鯨偶蹄目に分類される。紀元前から家畜として飼育されていた歴史があり、とくに遊牧民の重要な産業動物として、食用の乳や肉、あるいは毛・皮の利用など、さまざまな用途に用いられてきた。
クジラ類とヤギは共通の祖先をもつことから、同じ陰茎型を有するのは想像に難くない。ヤギの他、ウシやヒツジ、ラクダなどの偶蹄類は、そのほとんどが草食動物であるため、野生下ではいつも外敵からの襲撃を警戒しなければならない。
とくに無防備になりがちな交尾中は要注意で、ロマンチックな気分に浸っている場合ではなく、なるべく短時間で交尾を終わらせる必要がある。そこで彼らが獲得した戦略が「一突き型交尾」である。じつはクジラ類は肉食性であるが、この一突き型交尾を選択した。
一突き型交尾では、パンと手を叩くくらい一瞬のうちに交尾が終わる。弾性線維型の陰茎は、前述したように腸から伸びる筋肉(陰茎後引筋)に引っ張られながら、普段は包皮の中に一定の大きさでS字状に折りたたまれた形で収まっている。
それがメスの発情を察知すると、陰茎後引筋が弛緩し、陰茎が瞬時に飛び出す。まさに“一突き”で交尾を終えるのである。これにより、天敵の奇襲も何のそので交尾を完了させることを可能とした。