後にワコールの伝説となる「四条河原の決戦」
販売が開始されると、初めて取り扱いが始まったことに加え、2社が競争で売っているというので評判となり、大変な人だかりとなった。
内田は接客に専念し、幸一に売れた商品とお客からもらった代金を渡す。すると彼がレジへ行って包装し、おつりとともに内田に戻す。二人三脚の連係プレーが始まった。
内田は抜け目ない。自分の商品を売りながら、横目で青星社の売上げをチェックしていた。
(うちのほうがずっと売れてる……)
おつりを受け取るとき、そっとささやいた。
「社長、いけてまっせ!」
幸一はそれまでの緊張した表情を緩めて破顔した。
店が閉まってから当日の売上げを計算していく。内田は予想以上の好調に思わず泣き出してしまった。
「あれほど嫌がってたのに、ほんまに良くやってくれた。ありがとうな、内田のお陰や。よし、帰りにとんかつをごちそうしてやろう!」
当時のとんかつは大ご馳走だ。今まで泣いていた内田の顔に笑顔がこぼれ、大きくうなずいた。
こうして1週間はあっという間に過ぎていった。
後に“四条河原の決戦”と呼ばれ、ワコールの伝説となるこの勝負、結果は売上高ベースで5対1。和江商事の圧勝に終わった。
この時の和江商事の売上げは一日平均1万5000円。現在の60万円ほどにあたる。一つのショーケースの売上げだと考えれば、大健闘と言うべきだろう。
青星社には、新参者の和江商事に負けるはずがないというおごりもあったのだろう。販売員が売り場でたばこを吸っているところを高島屋の幹部に見つかり、こっぴどく叱られるおまけまで付いた。
「おたくに決まりました」
花原部長からそう告げられたとき、幸一は戦地から帰ってきて初めて男泣きに泣いた。