『新・経済原論』(東洋経済新報社刊・06年)の原題は「ザ・ネクスト・グローバル・ステージ」。ボーダレス・ワールドの次なる段階を『新・資本論』で示した経済要素と絡めて論じた本だ。これまでの経済理論が通用しない時代に国家、企業、地域、個人はどうあるべきなのか、現在のグローバルステージに相応しい新しい経済原論とは何かを提起した内容だ。
その流れを受け、『大前流心理経済学』(講談社刊・07年)では先進国経済を再生する処方箋として生活者心理に基づいた新しい経済政策の必要性を説いた。そして21世紀の国富論という形で思考を進めたのが、近著の『民の見えざる手』(小学館刊・10年)である。
『企業参謀』の3つのC(Company、Competitor、Customer)に始まり、新しい2つのC(CountryとCurrency)を加えた『5C』を理解することが、21世紀を生き抜く新しい企業参謀には必須の条件となる。『ボーダレス・ワールド』の頃まで、私が提示してきた戦略論やフレームワークというのは、本を読んで理解すれば、誰でも身につけることができる、いわば“ツール”だった。
自社の顧客は誰か、何を求めているのか。競合は誰か。自社の強みは何か――。これを突き詰めていけば、誰でも基本的な戦略策定のプロセスにたどりつけるし、実際の課題解決にも大いに有効だった。
しかし『新・資本論』で提起した新しい経済大陸である、見えない大陸では、それがほとんど通用しない。なぜなら新大陸ではあらゆるものが急速に変化するために、従来の戦略論やフレームワークの前提になってきた要素、つまり顧客や市場、競合が固定的に定義できないからだ。ソニーとマイクロソフトが戦うことになると、10年前に誰が予想しただろうか。
新大陸では顧客や競争相手によって、いかに臨機応変に自らを変貌させていけるかが勝敗を分ける。そうなると、型にはまった戦略論やフレームワークは役に立たない。