しかし、業種を限定し、試験に合格する条件を課している場合ではない。スキルを持った外国人の目に、日本はもはや魅力的に映らないからだ。

フィリピンの最大の「輸出品」は労働力だ。政府も外貨獲得の手段として人材輸出を意識しており、技能をクラス分けして、海外就労希望の人の公的リストまでつくっている。日本が豊かだったころは、フィリピンから子育てや介護の技能を持った人が大勢やってきた。しかし、今やフィリピンの人は世界中から引っ張りだこで、高い給料を求めてシンガポールやUAEに行く。知人の家に勤めていたフィリピン人の家政婦は、日本から言葉の問題もなく金払いの良いカナダの家庭に転職した。

政府は外国人労働者の受け入れに条件をつける発想をやめるべきだ。日本での就労を希望し、母国できちんと教育を受け、犯罪歴のない人なら、目をつぶって受け入れる。今や日本人がフィリピンの刑務所から犯罪を重ねる時代だ。日本人なら安心、外国人は犯罪予備軍、そのような発想は改めなくてはならない。ドイツのように公的費用でしっかり教育を受けてもらえばいい。幸い、少子化で教室は空いているし、いずれ教員も余っていく。

国境をまたぐ介護が当たり前に

移民受け入れは介護以外の問題を考えても積極的に進めるべきだが、移民希望者にとって今の日本は魅力がない。

ここで、介護問題で残る選択肢は1つ。日本から、海外に出ていくのだ。

私は以前、仲間と高齢者施設をつくろうと考えて、世界中の施設を視察したことがある。その中の1つに、タイのチェンマイの施設があった。施設でケアを受けるのは、ドイツやスイスから来たアルツハイマー病の傾向のある高齢者。ケアをするのは、タイ人だけでなくミャンマーやラオス、カンボジアなどから出稼ぎに来ている若い女性。利用者1人に対して、24時間3交代制で3人の介護職員がつく。介護士1人で複数の高齢者をケアしている、日本の施設とは格段の差だ。

西欧人と東南アジア人では言葉は通じないが、支障はない。入居者と介護職員が一緒に絵を描き、手を握って散歩するのに言語の壁はないからだ。

チェンマイは高地で、タイの中でも比較的過ごしやすい。蝶が舞い、鳥がさえずる環境で手厚いケアを受ける高齢者は、さながら極楽にいるようだ。

視察した当時は、18万円もあればひと月分の介護職員3人分の人件費と食事代、施設費を賄えた。当時のドイツやスイスの年金は約24万円だったので、年金でおつりがくる計算だ。

また、日本に外国人労働者が来てくれないなら、日本が自治体単位で東南アジアに施設をつくるのもよい。すでに一部の市区町村では、自分の地域内の高齢者施設が満員だからと、「県境」をまたいだ介護が増えている。そこに「国境」をまたぐ介護も視野に入れる。