認知症患者のほとんどが攻撃的にはならない
「犬が人間を噛んでもニュースにならないが、人間が犬を噛むとニュースになる」といわれますが、まさにその通りです。テレビで取り上げられるような事件は、めったに起こりません。だからこそ、ニュースになるのです。
たとえば、中学生がいじめを苦に自殺をすれば、センセーショナルに取り上げられます。しかし、1日に55人近く起きている大人の自殺は、著名人でない限りニュースにはなりません。子どもの自殺はレアケースで社会的な関心が高まりますが、大人の自殺は珍しくないため、視聴率が取れないのです。
死後数カ月も発見されなかった高年者が、悲惨な死としてセンセーショナルに取り上げられることがありますが、これもめったにある事件ではありません。このように、テレビとは、極めて公平性に欠いたメディアといえます。
認知症を発症して攻撃的になって、ときに他人を傷つけてしまう人もたしかにいます。しかし、9割の人は、症状が進行するにつれて穏やかに多幸感を増していきます。つまり、認知症になって暴走老人となるのは、珍しい例なのです。
「問題行動」を起こすのにはそれだけの理由がある
ちなみに、認知症の人が暴れると「問題行動」といわれてしまいますが、多くの場合、本人には暴れるだけの理由があります。
普段は幸せそうな認知症の患者さんでも、暴言を吐かれたり、子ども扱いされたりすると、腹も立てるし、抵抗したくもなります。認知症が進行しても、自分が正当に扱われていないとわかるのです。オムツを交換される際に、激しく抵抗したり、介護者を蹴り飛ばしたりすることがあるのは、恥ずかしいからです。
とくに女性にとっては、無理やり下着を脱がされているようなものですから、身の危険も感じることでしょう。こうした問題行動を起こす理由をメディアは取り上げず、問題行動だけを切り取って報道する。不安をあおり、ときに高年者を叩きまくる。それゆえに「年を取るのは怖い。認知症はもっと怖い」と、恐怖におびえる人が増えてしまうのです。